家業の豆腐屋を「ふぅ」と安らげるカフェに
元和菓子職人のFUUTO店主・梶原正裕さん

どこか懐かしい建造物が建ち並ぶ下吉田の商店街。この商店街の豆腐屋に生まれた梶原正裕さんは、閉店した豆腐屋をリノベーションし、カフェ『FUUTO COFFEE AND BAKE SHOP』を開かれました。白を基調とした都会的な空間でありながらも、店主の柔らかい人柄と元和菓子職人としての腕が光る絶品スイーツが、つい長居をしたくなると人気を集めています。また、サードプレイスオフィス(自宅でも会社でもない第3のワークスペース)としても利用できる、富士吉田市まるごとサテライトオフィスの取り組み『まるサテパスポート(富士吉田市内にあるanyplace提携施設を利用できるサービス)』で利用できる施設でもあり、仕事の状況を記録・管理できるデバイスが設置されています。オフィスや自宅以外の場所で仕事をしたい人、ご近所の方、インバウンドや国内観光客、どんな方でも心地よく過ごすことができる空間はどのようにして作られたのでしょうか。お店の魅力とともに、カフェオープンまでの道のりについても伺いました。
※anyplaceとは、コワーキングスペースや飲食店などさまざまな場所をワークスペースとして利用できるキャップクラウド株式会社のサービス。

和菓子職人の道を極めた1020

インタビューに応じてくださったFUUTO COFFEE AND BAKE SHOP店主・梶原正裕さん

本日はよろしくお願いします!

こちらこそよろしくお願いします。

元和菓子職人だと伺ったのですが

70年ほど前に祖父が豆腐屋を創業し、その後父が継いだのですが、父の本当の夢は料理人だったと後になって聞きました。進路を考える際に、父の夢であった料理人になることも頭に浮びましたが、僕には何種類もの食物アレルギーがあるため難しく。子どもの頃に時々いとこと一緒にお菓子作りをしていたことを思い出し、高校卒業後はお菓子作りの専門学校に進学しました。東京にある2年制の製菓学校で、1年目は和洋両方、2年目からは和菓子科を専攻し、お菓子作りを学びました。元々はパティシエになるつもりで入った学校だったのに、周囲と逆の選択をしたくて、興味がないにも関わらず和菓子科に(笑)。卒業後はそのまま都内の和菓子屋に就職して、下積み生活を送りました。その和菓子屋に4年半くらい勤めた頃でしょうか。先輩に誘っていただき、大阪の和菓子屋に転職しました。そこでも大体4年半くらい勤めたと思います。上下関係はすごく厳しい世界でしたし、今の時代とはまた違った厳しさがあるというか。その中でたくさん鍛えられましたね。

カフェを開きたいと思うようになったきっかけを教えてください

東京の和菓子屋に勤めていたある日、先輩にカフェに連れて行ってもらいました。初めて入ったカフェは、全く知らない新しい世界で「こんなにおしゃれなところがあるんだ!」と衝撃を受けて。この瞬間に「自分もカフェを開こう」と心に決めました。でも当時22歳。和菓子の技術も簡単に身につけられるものではないので、10年くらいは続けることに。大阪の和菓子店に転職したのも、カフェオープンに向けて貯蓄できそうな環境だったということが大きいです。カフェの開業について学んでいると、ほとんどの本に一番最初に躓くのは開業資金の不足だと書いてあり、とにかく貯蓄が大事だと思いました。それで、大阪の和菓子屋で和菓子作りの習得と貯蓄に勤しみました。貯蓄が目標金額に達したところで和菓子屋の道を離れ、東京のカフェに転職しました。20代はカフェ開業に向けて一つずつクリアしていく毎日でしたね。

着実な歩みで長年の夢を叶えた梶原さん

昔ながらの豆腐屋がカフェになるまで

富士吉田に戻られたのは計画通りだったのでしょうか?

富士吉田での開業は全く考えていませんでしたね。ちょうどコロナの流行もあり、そのタイミングで東京を離れることにしたのですが、最初は妻の地元である静岡での開業を検討していたんです。富士吉田は人口が減少傾向にあったということもあり、静岡の方で物件探しを始めました。半年くらい探し続けていたのですが、なかなかピンとくる物件に出会うことができず、ただただ時間だけが過ぎていって。会社勤めだった頃と違い、時間だけはあったので富士吉田に来る機会も増えていたのですが、その時に高校時代にはわからなかった地元の魅力に気がついたんです。富士山がこんなにも間近に見える場所は他にないなって。一回離れたことで、ここは他と違う特別な場所だとようやく気がつきました。

妻にはなかなか言い出せなかったですね。静岡でやるってずっと言ってきたので。それでモヤモヤしていた時に、前職の社長と話す機会がありました。その方も富士吉田にはよく来られていたので相談したら「ポテンシャルのある場所だから案外いいんじゃない?」と。その言葉に背中を押され、富士吉田で開業することに決めました。ずっとカフェを開くことを目標に過ごしていたことを妻も知っていたので、理解してもらえて本当に助かりましたね。

懐かしさを残した街並みに溶け込む外観

どんな経緯で豆腐屋跡地にオープンされたのでしょうか?

最初は市内で物件探しをしましたが、閉店している店が多い割にテナントとして出ている物件はほとんどありませんでした。というのも、この辺りは一階が店舗、二階が居住スペースといった造りが非常に多いんです。だからお店を閉めても人に貸すような状況ではないんですよね。僕の実家も一階が豆腐屋で二階が居住スペース。豆腐屋も数年前に畳んでいるし、だったらそこを活用するのはどうだろうかと考え、両親に話してこの場所に店をオープンすることになりました。

祖父と父、二代に亘り続けてきた豆腐屋ですが、父は昔から豆腐屋だけは継がせたくないと言っていました。それはやっぱり、朝から晩までキツい環境下で働く割に、生活は楽にならないということですね。スーパーに行けば100200円の豆腐が手に入る時代なので。冬場は冷たい水槽に手を入れ、夏場は40度ほどの部屋で揚げ物をする姿を僕も見てきたので、豆腐屋を畳むときは悲しいというより「お疲れ様でした」という感謝の気持ちでした。

お店のコンセプトを教えてください

いらしたお客様が「ふぅ」と一息つけるような空間を目指しました。「とうふ」を逆さまから読むと「ふうと」。カッコつけたがってラテン語の店名を考えるも、なかなか案が浮かばなかったのですが、妻の「とうふを逆さまにしたらいいんじゃない?」という一声で『FUUTO』になりました。若い方からご年配の方まで、幅広い年齢層の方に利用してもらいたいですね。この辺りも次々に店がなくなってしまい、おじいちゃんやおばあちゃんが集える場所がないんですね。なので、お茶でも飲みながら気軽に話せる寄り合い所のように使ってもらえたらいいなと思っています。有難いことに、地元の方には豆腐屋の時代から知っていただけているので、昔豆腐を買いに来てくださっていたお客さんやご近所さんにもよく来ていただいています。忙しくなった時は母も店に立つことがあるので、母の存在も大きいかもしれませんね。メニューは僕と妻が担当。妻も元和菓子職人なので、いろいろな面で助けられています。

「田舎だけど敢えて都会的な空間を目指した」と梶原さん

店内のインテリアは、前に勤めていたカフェの会社に依頼しました。実はカフェ経営よりも店舗の設計やインテリアデザインがメインの会社なんです。開業するにあたって必要なものは大体前職の会社に揃っているので、設計からインテリア、細かな備品まで相談しながら決めさせていただきました。

おすすめのメニューは何ですか?

看板メニューはどら焼きとレモンケーキです。元和菓子職人なので、和菓子のメニューも考えたのですが、専用の機材がないと難しいことがわかりました。中途半端になるなら出さないほうが良いと思い、今のところ和菓子のメニューはどら焼きのみです。おすすめのドリンクはやはりコーヒーですね。この辺りの水は富士山の雪解け水だそうで、水の美味しさは群を抜いているかな。蛇口から出る水も美味しい。コーヒーの味にも多少影響があるかもしれません(笑)。

焼き菓子から喉ごしの良いスイーツまで幅広い品揃え

anyplaceを活用した多様な働き方を応援!

anyplaceの提携施設としてもご登録いただいていますね

打刻することで仕事状況を管理できるデバイスの設置やWi-Fi、コンセントなど、ワークスペースとしてもご利用いただけるよう完備しています。きっかけは開業準備中に富士吉田市役所の地域振興·移住定住課(現ふるさと魅力推進課)とキャップクラウドでリモートワークされている方とお話ししたことです。その際にあらゆる場所をワークスペースとして活用するanyplaceプロジェクトを始めたばかりだと伺いました。当時コロナ禍だったこともあり、都心からワーケーションで来られる方が増加していたので「うちの店もぜひ登録させてください」と伝えました。まだオープン前で、どういうお客さんに来ていただけるか分からない状況だったので、ワーケーションで来られた方にもうちの店に足を運んでいただけたらいいなという思いから、anyplaceの提携店舗に登録しました。(ワークスペース一覧はこちら:https://marusate.jp/workspace

仕事の状況を記録・管理できるデバイスを設置

今のところ、利用される方はそこまで多くはありません。やはり立地的には駅直結のドットワークPlus·ドットワークPlus Labが一番利用しやすいのだと思います。この辺りは観光地化していますし、駅からも離れているので利用者は少ないですが、ぜひ多くの方に活用していただきたいですね。

Uターン移住で気づいた富士吉田の魅力

昔と今で富士吉田はどのように変化したと感じますか?

一見インバウンドによって活気付いているようにも見えますが、僕が小さかった頃と比べると元気がなくなった印象があります。僕もコロナ禍で戻ってきたとき、地元の友達にやめた方がいいよと助言されました。昔、ここは多種多様な店が軒を連ねていて、すごく賑やかな商店街だったんです。大人になって帰ってくるたびに少しずつお店が減っていき、今では典型的なシャッター通り。

でも変わらないなと思うのは、人の温かさですね。カフェを開業する時には、近所の方が「知り合いに配りたい」と言ってたくさんお菓子を買っていってくださったり、周りに宣伝してくださいました。本当に地域に助けられていますし、地元の皆さんの優しさは今も昔も変わらない。それはすごいことだと思っています。

梶原さんが感じる地域の課題はありますか?

今は観光客の増加もあり、お店の数も増えていきそうな気配はあるのですが、行政がどういうビジョンを描いているのかは気になっています。お店が増えれば地域に人を呼び込めるというわけでもない。富士吉田をどういう町にしていこうとしているのかを地域のみんなが理解して協力し合わないと、結局その場限りの賑わいになってしまうのではないかという懸念はあります。インバウンドの増加と言っても、ものすごく多いわけでもない。少ない母数をただ取り合っていても、またどんどん淘汰されていくだけなのかなと心配しています。地域に対して行政が旗振りしてくれることを期待したいです。

スタッフと連携しながらスムーズな提供を心がける梶原さん

ドットワークプロジェクトに期待されることはありますか?

働きやすい環境づくりやワーケーションのための取り組みをされていて、ここに暮らす僕らからすると本当に有難いことだと感じています。観光だけでなく、いろんな目的を持った方に来ていただき、その上で富士吉田の良さを知ってもらえる。素晴らしい取り組みだと思います。この事業を継続するのは並大抵ではないと思うのですが、この先も続いてほしいですね。

梶原正裕さんからのメッセージ

移住してきたからには、今いるこの場所でしっかりと地元のコミュニティと関わって地域を盛り上げていきたいという気持ちが出てきています。逆に「根を張ってここの暮らしを楽しむ」という気持ちがないと大変かもしれません。これからは、地元に少しでも役立てるよう、何か還元できるものを作れるといいです。密かに思っているのは山梨県の銘菓を作ること。山梨といえば信玄餅だけど、その一強を崩せるようなことができたらいいなって(笑)。

FUUTO COFFEE AND BAKE SHOP

https://www.instagram.com/fuuto_coffee.bakeshop

 

 

「富士吉田市まるごとサテライトオフィス」とは

「富士吉田市まるごとサテライトオフィス(略:まるサテ)」は山梨県富士吉田市全体を使って、様々な事業者が富士吉田市内に自分のサテライトオフィス(企業または団体の本拠地点から離れた場所に設置されたオフィス)を手軽に持つことができる取り組みです。

(詳細:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000093585.html

富士吉田市まるごとサテライトオフィスでは取材に応じてくださる方を募集しております。「地域活性や街づくりに興味がある!」

「今こんな活動をして街を盛り上げている」

「頑張っている人がいるので記事で紹介してほしい」

「面白い構想があるのでこんな方と繋がりたい」などなど。

ひとつでも当てはまったら是非ドットワークPlusにいらしてください!

写真·記事執筆/高井まつり(KINONE