アーカイブ活動で地域の歴史を未来に残す
地域おこし協力隊の大学院生・馬場亮河さん

今年の春から東京大学大学院で環境学を学ぶ馬場亮河さんは、入学と同時に富士吉田市の地域おこし協力隊に着任し、富士吉田に移住されました。地域に残る古い資料や写真・映像をデジタル化して残すことに精力的に取り組まれています。この活動を通して昔の富士吉田を深く知ることは、この町の未来を考える上で必要なことであり、環境学の面でも学びが深まると馬場さんは言います。幼少期から海外の様々な土地で暮らしてきた馬場さんの目には、富士吉田という町がどう映るのでしょうか。学生たちの活動場所『学生拠点コロコロ』の母屋に暮らす馬場さんが大勢の学生たちと関わる様子も取材させていただきました。

地域に根付いた生活に憧れて

インタビューに応じてくださった東京大学大学院生/地域おこし協力隊の馬場亮河さん

本日はよろしくお願いします!

こちらこそよろしくお願いします。

現在の活動について教えてください

今年の4月から富士吉田市の地域おこし協力隊として活動しています。活動内容は、地域の古い写真や映像を集めたり、地元の方々の思い出話をインタビューして記録・紹介するアーカイブ活動をすることです。このアーカイブ活動がしたいと思い、地域おこし協力隊に応募しました。同時期に東京大学大学院の修士1年となり、環境学を学んでいます。サスティナビリティを多角的に研究するプログラムに入り、地域おこし協力隊の活動と並行しながらテーマに沿って研究を進めているところです。富士吉田は大学生の頃に授業で訪れたことがきっかけで知ったのですが、大学院に入ってからも引き続きこの地域と繋がれることがしたいと思うようになりました。また、『学生拠点コロコロ』の母屋に住みながら、ここに集まる学生たちと様々な取り組みにチャレンジしています。以前は元地域おこし協力隊の伊藤純也君が “ふじよしだ大学という学生コミュニティを作り、この場所を拠点に活動していました。(元地域おこし協力隊・伊藤純也さんの記事はこちら https://marusate.jp/marusate_interview_46

データを安全に保管する活動のこと

伊藤さんの代に誕生した学生コミュニティ“ふじよしだ大学”

移住に踏み切った一番の理由は?

富士吉田でやりたいことがあるというのが一番のモチベーションです。自己実現できる環境であると思ったので移住に至りました。実は生活面でも憧れがあって。一応実家は東京にあるのですが、幼少の頃からいわゆる転勤族だったので、ずっと海外で暮らしてきました。3年ごとに地域を移っていたので、帰る故郷というものがなかったんです。日本に帰ってきても振る舞いが日本人っぽくないところがあったり、逆に海外にいるときは日本人ということでパーソナリティが周りと違った。どこにいても疎外感のようなものがあったので、地元というものに漠然とした憧れがありました。それが地方に目を向けるようになったきっかけです。

大学のフィールドワークで初めて富士吉田に来た際、この地域のことを学んだり、地元の方にインタビューをしました。その授業を通してこの地域のことが自分事化していくのを体感し「今まで訪れたどの地域よりも富士吉田のことを知っている」と思った瞬間に愛着が湧いてきたんです。そんな経験も移住に至った理由の一つですね。富士吉田は自然に囲まれていて人も良くて。これまでは、隣近所のことはあまり知らないような生活をしてきたので、じっくり人間関係を作っていくという経験はなかったですね。今は、近所の人が野菜を持ってきてくれるなど、そういう憧れの暮らしが叶いました。

未来のために昔の記録を保存するアーカイブ活動

地域おこし協力隊の活動について教えてください

僕は、地域の昔の写真や映像、資料などを記録するアーカイブ活動を行なっています。市役所だけでも800枚ほどの大量のフィルム写真が残っていて、この全てをデジタル化するという作業に取り組んでいます。イベントの際に市民から集めた写真などもストックされており、かなり古いものなので処分も検討されていたようですが、それを全て引き取らせていただきました。

それから、まず地域のことを知る必要があるので、インタビューも行なっています。富士吉田のことならなんでも知っているような方が数人いらっしゃるので「写真に写る風景はどこなのか」「いつの時代の写真なのか」など聞いて回っています。分かることは教えていただけますし、分からないことは知っている人に繋いでくださるのでとてもありがたいですね。特に、老舗に行くと昔から富士吉田を見てきた方が必ずいらっしゃるので、いろんな情報をいただくことができています。この活動で得たものはどんな形であれ、いずれ地域の皆さんに公開できればいいなと思っています。

回覧板でも呼びかけることで多くの資料や写真が集まった

記録したものの活用については何か構想がありますか?

現在、富士吉田の課題の一つとして「多くの観光客の来訪により、地域としての新しい調整が求められる場面が増えていること」が挙げられます。また、観光は一部の限られた人に利益が集中する傾向があります。それに対して産業は、町全体で取り組んでいけるという側面があります。昔はどんな地域だったのかを踏まえた上で、観光業の限界や産業のこれからについて考えていきたいと思っています。昔の話や写真などの記録が、地域に根差したこれからの活動の根拠となるような使われ方をされるのが理想です。

それから、どんな方がどういう目的でこの町に来るのかを今後はしっかりと把握していく必要があると考えています。大型観光バスで来て、少し自由時間を過ごして、また次の場所に移っていく観光が相変わらず主流のようですが、それでも徐々に、団体ではなく数人で訪れる個人観光客も増えてきているみたいです。カルチャーツーリズム(異なる文化や生活、伝統などを体験することが目的の観光)のように、この土地のことを深く知りたいとか、文化を体験したいという知的好奇心から訪れる人が増えて、それが滞在時間の長さにも結び付いていくといいですね。

アーカイブ活動を通して地域の未来を考えたいと話す馬場さん

昔を知ることや残すことは、僕が大学院で専攻している環境学にも繋がっています。地形から昔の人が耕してきた畑があったことや、作物を育てる文化がここにあったということが見て取れる。地域の環境や自然について考える時に、まずは先祖代々受け継いできたものが何なのかを知る必要があります。そういった点がアーカイブ活動と環境学で通じるところではないでしょうか。

他にこれから注力していきたいと思うのが、教育の分野です。この町に暮らす小中高生たちが、地元に誇りを持つために必要なことって何だろうと考えたときに、地域の特徴である富士山や織物にどれだけ興味関心を持てるかが大事になってくるのではないかと思います。子どもたち自身の問題ではなく、市民全員の問題として受け止め、子どもたちに、どうわかりやすく伝え、盛り上げていくかが大切なような気がしています。アイデアはいろいろと浮かびますが、どんな分野においても実装が大事だと最近強く思うようになりました。実験的でいいので、そのプロセスは大事にしていきたいですね。

まだまだ進化中!『学生拠点コロコロ』

みんなのアイデアで進化を続けるコロコロ

コロコロについて教えてください

学生拠点コロコロは、この地域にステップインする学生たちの窓口になっていて、この場所で様々な取り組みが行われています。僕はここの母屋に暮らしながら、いろいろなプロジェクトに参加しています。これまで関わってきた学生も社会人になった途端に富士吉田との関係が途絶え、疎遠になってしまう傾向にあったので、OGOBとして関われる場所としても機能させていけたらいいなと思っていて。そのためにも学生を名詞と捉えるのではなく、動詞として捉えていきたい。「学生=若者・バカ者・よそ者」の受け皿として改めてこの場所を作っていきたいです。それにちなんだイベントも開催していきます。

例えばどんなイベントでしょうか?

この空間をより使いやすくするためにパーテーションを設けることになったのですが、せっかくならみんなの手を加えることによって自分事として捉えられるようにしたいと思いました。知り合いやこれまでコロコロに関わってくれた人たちみんなが参加することによって出来ていく、参加型のイベントです。今日は元地域おこし協力隊の伊藤純也君も東京から参加してくれました。ここ以外にもう一つ部屋があり、そちらでは東京大学大学院生が集まって、あるプロジェクトを進めているようです。

B反(織物の製造過程で出たB級品)を用いてパーテーションを作る学生

 

東京大学大学院生たちがプロジェクトを進める作業部屋

富士吉田に住んで感じる地域の魅力とは

富士吉田のアピールポイントを教えてください

自然に囲まれていることや親切な人が多いという点はアピールポイントだと思います。あと、最近早起きをして町を散歩しながら音を採取することにハマっています。富士吉田は傾斜が多く、上吉田と下吉田が坂になっていて、色々な場所で小川を見かけることができます。場所による水の音の違いを楽しめますし、織物工場の横を通るとガチャガチャガチャっていう織物を織る音が聞こえてきて。この町ならではの音って何だろうと考えながら街歩きを楽しんでいますね。なので、アピールしたいのは富士吉田の音!(笑)

それから、熱を感じられる場所が非常に多いなと。移住者が開いた店や宿、新しいところは特にアツいなと思います。富士吉田は老舗も多い町ですが、老舗は言うならば炭のような熱さでしょうか。どちらも違った熱がありますね。

ドットワークプロジェクトに期待されることはありますか?

ワーケーションできる環境が整っていることで、関係人口や観光人口の増加に繋がりますし、とても素晴らしい活動だと思います。仕事ができる環境とともに、何か地域で体験できるコンテンツを提供できると、自分のため、あるいは地域のためにも繋がって、ますます好循環が生まれる気がしています。そんな人が増えていくと嬉しいです。

馬場亮河さんからのメッセージ

大学院の教授が「富士吉田はいろんな活動がすごい速さで生まれている」とつい先日話されていました。「それはすごく珍しいこと」と言っていて。変化が目まぐるしい町だけど、それは特定の大きな企業や資本が入ってきて町をガラッと変えているのとは違うのだと聞いて、さらに面白い町だと思いました。裏を返せば、誰もがチャレンジして切磋琢磨できる場所だということですよね。それに飛び込んでいく人たちを見ていると、不思議と元気になるし、自分もチャレンジしていかなきゃと、温度が上がります。学生や若い人にとっても刺激になる場所だと思うので、一度訪れて熱を感じてみてほしいです。

馬場亮河さん
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「富士吉田市まるごとサテライトオフィス」とは

「富士吉田市まるごとサテライトオフィス(略:まるサテ)」は山梨県富士吉田市全体を使って、様々な事業者が富士吉田市内に自分のサテライトオフィス(企業または団体の本拠地点から離れた場所に設置されたオフィス)を手軽に持つことができる取り組みです。

(詳細:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000093585.html

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「今こんな活動をして街を盛り上げている」

「頑張っている人がいるので記事で紹介してほしい」

「面白い構想があるのでこんな方と繋がりたい」などなど。

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写真・記事執筆/高井まつり(KINONE