人と人をつないで富士吉田でイノベーション!
地元の課題にフラットな視点で向き合う渡邊響さん

地元の人々から親しまれている下吉田の本屋『卓示書店』。富士山のビュースポットとして多くの観光客が訪れる商店街『本町通り』から一本道を入ったところにあり、中には児童書や絵本がたくさん並んでいます。今回ご登場いただくのは、この本屋が実家だという渡邊響さん。生まれたときから本に囲まれて育った渡邊さんは、高校を卒業後、進学を機に地元を離れました。そして、カナダ・トロントへの留学や都会での生活など、さまざまな経験を積み、半年ほど前にUターン。現在は、勤め先の仕事をリモートワークでこなしながら、休日を使って会社立ち上げと新事業構築に向けて精力的に活動されています。インタビューでは、富士吉田の中も外も知る渡邊さんならではの視点で、地域おこしやこれから始まる事業についてお話していただきました。時代の波を読んで舵をとる洞察力と行動力!これを読めば富士吉田の未来が垣間見えるかもしれません。

進学、留学、就職。地元を離れて見えたもの

インタビューに応じてくださった渡邊響さん

本日はよろしくお願いします!

こちらこそよろしくお願いします。

これまでのご経歴を教えてください

生まれも育ちも富士吉田市で、大学進学を機に神奈川県で一人暮らしを始めました。大学では英語を学んでいたのですが、実際それを生かしていない人が周りには多くて。僕は無駄にしたくないと思い、大学3年の時に1年間カナダのトロントに留学しました。『ビートルズ』が大好きなので、本当はイギリスに留学したかったのですが、ワーキングホリデー(日本と協定を結ぶ国に働きながら長期滞在できる制度)が取りにくい国なんです。それに、ちょうど留学を決めた年にロンドンでテロがあって。安全性を選ぶべきだと考えて、トロントに決めました。

トロントではアルバイトをしながら、よくバーに通いましたね。留学先では語学学校に通うのが一般的だと思うのですが、学校に3ヶ月30万円の授業料を払うんだったら、そのお金でバーに通って居合わせた人と話した方が断然勉強になるような気がしていて。単純にお酒が好きだったということもあるのですが、そんな楽観的な考えで通い始めてみたら、僕にはぴったりはまりました。結果として、語学学校に通うよりも英語が身についたように感じています。それに、トロントは移民が多いこともあって、バーで飲んでいるだけでいろいろな国の人と知り合えました。そこにいるだけで韓国も知れる、中国も知れる、フランスも知れる。一ヶ所で異文化交流ができてしまうのがトロントの魅力ですね。

留学先のトロントにて。レストランでのアルバイト経験も語学力を向上させたのだという(提供写真)

 

留学を機に価値観の変化はありましたか?

そうですね。地元に対する見方は変わったと思います。トロントに渡って1週間ほど経った頃、ホームシックになったんですよ。もうずっと家族の写真を見たり、日本のニュースを見たり。今思い返すと気持ち悪いですが、当時の僕はそんな感じで。その時にやっぱり富士吉田はすごく良いところなんだと思いました。困っていたら誰かしら声をかけてくれるし、安全ですし。そういう面では住みやすくて、観光もしやすい場所だなと、離れてみて初めて感じましたね。帰国した時はとにかく真っ先に富士吉田に帰りたくて、一週間くらい実家に滞在してから、大学のある神奈川に戻りました。留学したことで、何もないと思っていた地元の本当に良いところが見えてきた。それが一番の変化です。

大学卒業後は、横浜にあるオンライン英会話スクールや、英会話コンテンツの開発・販売などをメインに行っている会社で英語講師としてアルバイトを始めました。その後、「英会話コンテンツのマーケティングをやってみないか」と声をかけてもらい、社員としてマーケティングの仕事に携わるようになりました。マーケティングの経験はなかったけど、いろんなことに挑戦したい気持ちがあったのでお話を受けました。その後、コロナウイルスの流行がきっかけでリモートワークが増えたのですが、この先もリモートがメインになることを知って。それならばと半年ほど前に富士吉田に戻ってきました。今は実家にこもって、オンラインで繋がりながら仕事をしています。

子どもの頃の愛読書を眺める渡邊さん。100年以上の歴史を誇る“実家”卓示書店にて

 

コンセプトはつなぐ。会社設立と事業にかける思い

現在、会社設立に向けて動いている真っ最中だと伺いました

はい。『Linkify(リンキファイ)』という会社を設立中です。Linkつなぐify富士吉田の頭文字です。『つなぐ』というコンセプトのもと、まずは観光アプリの開発や、古民家リノベーションなどの事業から始める予定でいます。今後、いろいろな事業を展開していきたいので、あえて宙ぶらりんな名前にしてみました。

観光アプリとは具体的にどんなものでしょうか

コロナ対策による規制が緩和されたことで、富士吉田にくる外国人観光客がかなり増えてきています。これは予想外の勢いだったと思うのですが、それに対しての受け入れ体制が追いついていないのを日々感じていて。外国語対応という面でもそうですし、観光スポットやお店の情報が分散していて、外国人観光客にとってわかりづらい状態です。なので、富士吉田の情報を集約したオールインワンの観光アプリを開発中です。

昨今、男女のマッチングアプリが人気ですが、そんな感じで人とモノだったり、人と体験をつなぐ観光マッチングアプリを英語ベースで作れたらいいなと。インターネットやパンフレット、いくつものアプリを使って調べたりプランニングするのってものすごく手間がかかりますよね。でも旅行中はじっくり味わう時間を大切にしたい。そこを解決していけたらと思っています。結果として、観光客の滞在時間が延びて観光消費に繋がっていくことを目指しています。

古民家リノベーション事業についても教えてください

はい。今、地元の友達二人と一緒に考えているのは、古民家の民泊です。都会から地方に移動して滞在する人がここ数年で急激に増えましたよね。それによってこの辺りも宿が増えつつありますが、需要に対して供給が間に合っていない。そこで、自分たちでも少しずつではありますが、動き始めているところです。イメージしているのは、都会の喧騒から離れて1週間から1ヶ月ほど滞在できる場所ですね。仕事をしながら中長期間ステイすることで、1日では伝わらない町の魅力を知ってもらえるのではと考えました。

ただ、物件探しはなかなか苦戦していますね。空き家は年々増えているはずなのに、まとまった情報がほとんどない。一応空き家バンク(空き家を売買するためのネット上のサービス)はあるけど、この辺りは載せる人が少ないみたいです。それは、持ち主が高齢者でサービスの利用が難しかったり、そもそも譲る気がなかったりと、理由はいろいろですが。なので、古民家を購入するには直接頭を下げて売ってもらうパターンが多いようです。今は休日を返上して車を走らせながら、地道に現地調査をしているところですね。一緒に事業をやる二人は首都圏在住なので、基本的に現地調査は僕一人です。離れていても、高校3年間部活で一緒だった仲間なので、遠慮なしにものが言える。そんな気楽さが良いですね。それに、いつできるのだろうっていう不明確な状況ですが、ここは焦って生活するような土地柄でもないので、気の向くままにやっていけます。若者や移住者も増えているので、新しい出会いを待っているようなところも内心ありますね。人がつなげてくれる縁はすごく大きいと思っているので。焦って動くよりも、適切なタイミングを待ちながら気長に進めていきたいです。

高校時代はボート部に所属。仲間と息を合わせることが何より大切なスポーツ(提供写真)

 

地域創生の視点で考える富士吉田市のこれから

今の渡邊さんから見た富士吉田はどんな場所ですか

都会に住んでいた頃は、休日になると何か無理やり予定を作らなくては、という思考になりがちでした。住んだことがある人だったら、これを閉塞感という言葉で表すと思うんですが。今はSNSで周りの人が休日にどこに行ったとかすぐに目に入ってくる時代なので、余計に「じゃあ自分は何をしよう」とか、羨ましいという気持ちになったりとか。そういう蓄積がすごく嫌になってきて。それで、富士吉田に住んでいた頃を思い返してみたら、一歩外に出れば近所のおばあちゃんと話したり、人から野菜をもらったり、地域のコミュニティがあったなって。別に目的がなくても、そこに住んでいること自体がストーリーになるというか。それが一番の魅力だと思っています。

正直、子どもの頃は何もない場所だと感じていたけど、今は、僕が必要としているものはすべてある。コミュニティもそうですし、ちょっと仕事をしたり本を読んだりできる喫茶店だったり、飲み屋や美味しいご飯屋さんもある。あとは自然も好きなので、キャンプにもよく行きますね。車を30分も走らせればキャンプ場があります。何もないと思っていた場所が、気づけばすべてある場所に変わっていました。

下吉田から車で15分ほどの『河口湖漕艇場』は、学生時代の思い出が詰まった場所

今後、さらに「こうなると良いな」ということがあれば教えてください

地域創生について学ぶ合宿に参加したことがあるのですが、そういった視点でいうと、排他的かつ閉鎖的という面は、ここ富士吉田にもあると感じています。よそ者、若者、バカ者という言葉があるのですが、これは町おこしに大事な要素だと言われている3つなんです。要するに、地元の人だけが集まって町をよくしようと言っていても、何もイノベーションは起きないということ。なので、一旦外から俯瞰してその場所を見てみたり、そこに暮らす人たちを観察する必要がある。そういう外からの視点が大切になってくるということですね。

最近は外国の方も増えてきていて、対応が追いつかないなどの困りごとも出始めています。今までは排他的だった地元の人たちも、外からきた人の力が必要だと思い始めている瞬間じゃないかと感じていて。可能性がすごく高まっている今、イノベーションを起こしていくってなると、やっぱり外からきた人と地元民が交われる場所が大事になってくるのではないでしょうか。そういった意味では、立地も良く設備も整っている『ドットワークPlus』が多種多様な人が集まれる場所になったら良いですね。僕は対面での打ち合わせで利用させてもらうことが多いのですが、ワーカーだけが利用するのはもったいないので、おじいちゃんおばあちゃんや子育て世代、子どもも来られたら、地元のリアルな情報が入ってくる場所になる気がします。

僕はしばらく地元を離れていたのでよそ者でもあるのですが、父が富士吉田で書店を経営していることもあって、周りの人とつながりができやすい立場です。なので、外からきた人の話もちゃんと聞いて寄り添うことを大切にしたいですね。人と人をつなぐ立場で地元を興していきたいという信念があるので。

『アントレプレナーキャンプ』に参加し、地域創生についての学びを深めた(提供写真)

渡邊響さんからのメッセージ

富士吉田は、昭和レトロな雰囲気が魅力で観光客も急増中。これからますます活気が出てくる町です。そして、今イノベーションが必要なときでもあります。これを読んでいただいた方はぜひ『ドットワークPlus』を利用し、いろいろな人と交流してみてほしいです。気になるイベントがあれば参加してみるのも良いですよね。僕も先日『ドットワークBAR』に参加しました。多種多様な人と交流して、バックグラウンドを知る。そこからイノベーションが始まるような気がしています。

Linkify(法人設立中)

卓示書店
https://www.books-takuji.jp

 

◯ 「富⼠吉⽥市まるごとサテライトオフィス」とは

「富⼠吉⽥市まるごとサテライトオフィス(略:まるサテ)」は⼭梨県富⼠吉⽥市全体を使って、様々な事業者が富⼠吉⽥市内に⾃分のサテライトオフィス(企業または団体の本拠地点から離れた場所に設置されたオフィス)を⼿軽に持つことができる取り組みです。
(詳細: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000093585.html

 

◯ 富⼠吉⽥市まるごとサテライトオフィスでは取材に応じてくださる⽅を募集しております。

「地域活性や街づくりに興味がある!」

「今こんな活動をして街を盛り上げている」

「頑張っている⼈がいるので記事で紹介してほしい」

「⾯⽩い構想があるのでこんな⽅と繋がりたい」などなど。

ひとつでも当てはまったら是⾮ドットワークPlusにいらしてください!

写真・記事執筆/⾼井まつり(KINONE)