市民の健康増進と学生の学びを同時にサポート。
富士吉田市立看護専門学校教員・天野圭一朗さん
まるサテの一大拠点である『ドットワークPlus』にて、7月から定期開催をしている『ふじのまちのヘルスアップルーム』というイベントはご存知でしょうか。健康増進を目的に、富士吉田市立看護専門学校の学生が主体となって、地域住民の健康チェックや情報提供をする取り組みです。会場には『In Body』という体組成分(筋肉量、タンパク質、ミネラル、体脂肪など)がわかる精密測定器も設置。来場者は自身の体の現状を知ることで病気の予防や体質改善に役立てることができます。また学生の皆さんが地域の方と直接交われる“学びの場”としての側面もあります。この健康増進と教育が両立した新事業を立ち上げたのは、富士吉田市立看護専門学校で専任教師として働く天野圭一朗さん。元々看護師だった天野さんは、暮らしの中での健康づくりがいかに大切かを知り、富士吉田市役所の保健師になりました。現在は看護専門学校に異動し、看護師を育てる立場として日々学生と向き合っています。今回のインタビューでは「どんな思いで教育に携わっているのか」や「地域の健康増進において大切なこと」などをお話しいただきました。
予防活動の大切さを知り看護師から保健師に
本日はよろしくお願いします!
こちらこそよろしくお願いします。
看護専門学校の専任教員になられた経緯を教えてください
山梨県山中湖村で育ち、高校卒業後に同じ富士北麓圏域にある富士吉田市立看護専門学校に入学しました。母親の仕事が看護師で幼少期から医療が身近な存在だったこともあり、看護の道を志したのは自然な流れだったように思います。看護で地元に貢献したいという気持ちがあったので、看護師免許を取得後は富士吉田市立病院に入職しました。そうして看護師として働いていたのですが、臨床経験を積む中で“再入院される患者さんが非常に多い”ということを感じるようになって。一度退院しても数ヶ月後には同じ病気で戻ってこられる方が多くいるという実情を知り、予防の分野に関心を持ちました。病気になる前段階で、健康でいられる期間を一日でも長くできたり、病気を抱える人を少しでも減らせるような関わりができればいいなと。予防について学ぶために一度休職し、保健師学校で保健師の資格を取得しました。
卒業し再び病院で働いたあと、富士吉田市役所の健康長寿課で母子保健を担当しました。そして4年前に母校である富士吉田市立看護専門学校に異動することになり、現在は専任教員として『地域·在宅看護論』という科目を担当しています。講義や看護学実習の計画・運営・教授活動など看護教育を行っていますが、その一環として地域の人が気軽に立ち寄れる『ふじのまちのヘルスアップルーム』というイベントを定期開催しています。
保健師として研究も続けていき、富士吉田や周辺地域に暮らす人々の健康に役立てたらと思っています。看護研究は医療機関でも取り組まれていますが、在宅看護という分野においてはあまり多くはない気がしているので。地域住民はもちろんですが、日本全国の人が今よりもっと健康でいられるよう、研究活動を進めていきたいですね。
学生の学びと地域住民の健康増進を同時に
『ふじのまちのヘルスアップルーム』ではどんなことをするのでしょうか?
『ふじのまちのヘルスアップルーム』は、地域の方々が気軽に立ち寄って健康について相談したり、血圧や酸素飽和度、体組成など、簡単な測定をすることができる“保健室”のような場所です。始まりは「地域住民の健康増進と学生の学びを同時に行うことはできないか」と考えたことでした。そして今年7月、キャップクラウドさんにもご協力いただきながら初めて開催することができました。毎回ドットワークPlusの一角を会場としてお借りしています。
会社などに所属していて、年に一度健康診断に行くという方も多くいらっしゃると思うんです。それも大切なことですが、健康増進や予防のためにはもう少し日常的に、自分の体に目を向ける機会を増やすことが必要になります。なので、定期的に開催することは「次回までにこんなことに気をつけて生活してみよう」という目標ができたり、意識的に生活することにつながっていく気がしています。前回の測定からどんな生活をしてきたのか、振り返る機会にもなると思いますね。すぐに結果が出るものではありませんが、通ってもらうことでより効果が高まるはずなので。子育て世代の方が親子できてくださったり、おじいちゃんおばあちゃんにも足を運んでもらい、初回からさまざまな方にご利用いただけたのは嬉しかったですね。測定以外にも、看護専門学校への就学相談も受け付けています。
参加した学生の皆さんはどんな感想を持たれたのでしょうか?
参加してくれた学生たちにとっても有意義な体験になったようです。ここ数年のコロナ禍により、住民と接する機会も学生同士の交流もとても限られていました。高校時代から学園祭や体育祭などのあらゆる活動が制限された環境で過ごしてきた学生が多いんです。そんな背景もあり、このヘルスアップルームに参加することで「家族以外の地域住民と直接交わることができて良かった」という気持ちでいるようです。
教育現場も在宅看護でも“人と人”であることを大切に
教育現場ではどんなことを意識されていますか?
教育の中で一番心がけているのは、“学生の声に耳を傾ける”ということでしょうか。自分が看護学生の頃、アメリカの学者『ジョイス·トラベルビー』という方を知りました。そのトラベルビーさんが考えた『ラポールの成立』という理論があるんです。それは“打てば響くような親密な人間関係を構築する”という内容で、信頼関係の大切さを唱えています。看護は“人と人”だということにとても感銘を受け、「ラポールを成立できるように患者さんと関わろう」と看護師時代からずっと意識してきました。治療を受ける患者さんと援助や指導をする看護師との間には上下関係が生まれやすいのですが、教員と学生の関係にも同じことが言えると思います。教育現場においても同じ人と人として相手を尊重し、まずはちゃんと意見を聴こうということをすごく心がけています。学生のことを理解できないと、一人ひとりに見合った指導をするのは難しいと僕は考えているので。
どんな看護師になってもらいたいですか?
保健師であり、地域·在宅看護論という科目を担当している立場からすると“退院後の暮らしを支える”という観点を持った看護師になってもらえるよう意識して指導にあたっています。令和4年度にカリキュラム改正があり、これまでの『在宅看護論』から、地域の特性や暮らしを支えることに重点を置いた『地域·在宅看護論』に変わりました。看護師は病気を治すところに活躍の場があるイメージですが、これからは患者さんが地域での暮らしに戻られたあともその人らしく過ごせるということが重視されていきます。相手を尊重するという話にも繋がりますが、生活歴や価値観など患者さんの個性に寄り添えるような看護に重きを置いて教育していきたいです。
患者さんや住民の暮らしを理解するという部分で大事になってくるのがフィールドワークの授業です。フィールドワークとは、グループに分かれて市内のさまざまな場所へ行き、住民の方々の日常生活を実際に見聞きするという学習です。“健康面で気を付けていること”などを地域の方にインタビューしたり、それを帰ってからまとめたり。最後はグループ内で発表するという流れです。従来より地域に根ざした学びをカリキュラムに組み込んでいます。僕が学生だった頃は、病気や治療にフォーカスされていたのですが、看護教育も時代とともに変化しているのを感じますね。
富士吉田の魅力と“ドットワークプロジェクト”に期待すること
市民の印象や富士吉田のアピールポイントを教えてください
全国的に核家族化が進む中でも、富士吉田は親子3世代で暮らす人が多い印象はあります。一緒に住まなくても、同じ敷地内に別宅を建てて暮らすという家族は本当に多い気がします。直接話を聞くと、家族の老後についてきちんと考えていたり、家族との繋がりを大事にしている方の多さに驚きますし、温かい地域性を感じます。
富士吉田の魅力を挙げると、ひとつはコンパクトな中にもいろいろなものが詰まっていることでしょうか。買い物するときも短時間で回れて便利ですし、過ごしやすい町ですね。それと、富士山は山梨県のあらゆる場所から見えますが、いろんな富士山を楽しめるという意味では富士吉田が一番じゃないかと思うんです。新倉山浅間公園の展望デッキから望む富士山は観光スポットとして人気ですし、昭和レトロな商店街から見える富士山もすごく風情があっていいなって。どこがベストポイントだとは言えないくらいに多様な富士山を味わえるのがこの町の魅力です。
ドットワークプロジェクトに期待されることはありますか?
豊かな自然を感じながらのワーケーションは有意義ですし、すぐ側には世界文化遺産の富士山がある。この環境で働けることは、健康にとってもメリットがあると思います。それだけでなく、キャップクラウドには僕と同じ保健師の資格を持った方が働かれていますよね。それも一般職としての雇用というのがすごい。そういう方がいるだけで、社員やドットワークPlusを利用している方々が健康に目を向ける機会が増えると思います。それが、より長く健康に働けることにも繋がっていくのでは、と期待しています。そんな風にこれから先、保健師や看護師の働き方も多様化していくと思いますが、それに応じた場所が必要になります。「こんなことしてみたいな」と思った人たちが働ける場をドットワークプロジェクトで出会う方々と一緒に協力して作っていけたらいいですね。
個人としては、病院で働いた経験と市役所職員の立場で地域と繋がってきた経験があるので、その繋がりを人材育成にも保健師としての事業にも生かしていきたいという思いがあります。富士北麓圏域に住んでいる人たちがより健康に過ごせるようなことをこの先も考えていきます。
天野圭一朗さんからのメッセージ
家族や友達、道ですれ違う人も、お互いを大切にできる地域になってほしいという思いは常にあるのですが、まず一番に自分を大切にしてほしいです。「今日は美味しいものを食べた」とか「嬉しいことがあった」とか、どんなことでもいいと思います。それが健康やセルフケア能力の向上に繋がりますし、誰かのために行動できたり周りに優しくなれたりする。看護師になるには国家資格が必要ですが、“看護の心”を持つことに資格は要りません。それでも、もっと看護について勉強したいという人がいたら、ぜひ富士吉田市立看護専門学校にきてください。そして、入院中だけでなく、その前後にある暮らしを考えられる看護師になって地域で活躍してもらいたいです。
富士吉田市立看護専門学校
https://www.fymns.ac.jp/forms/top/top.aspx
◯「富士吉田市まるごとサテライトオフィス」とは
「富士吉田市まるごとサテライトオフィス(略:まるサテ)」は山梨県富士吉田市全体を使って、様々な事業者が富士吉田市内に自分のサテライトオフィス(企業または団体の本拠地点から離れた場所に設置されたオフィス)を手軽に持つことができる取り組みです。
(詳細:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000093585.html)
◯富士吉田市まるごとサテライトオフィスでは取材に応じてくださる方を募集しております。
「地域活性や街づくりに興味がある!」
「今こんな活動をして街を盛り上げている」
「頑張っている人がいるので記事で紹介してほしい」
「面白い構想があるのでこんな方と繋がりたい」などなど。
ひとつでも当てはまったら是非ドットワークPlusにいらしてください!
写真·記事執筆/高井まつり(KINONE)