兄弟の情熱とアイデアで伝統技術を未来に繋ぐ。
着物業界を盛り上げる和裁士・元山巧大さん
時代とともに和服の立ち位置が変化し、それに伴い着物を縫う技術の伝承もまた難しいものになってきていると教えてくださったのは、国家資格である和裁士の免許を持ち、新たな着物の在り方を提案する『巧流-call-』代表の元山巧大さん。祖父母の代から続く和裁の技術を未来に残すべく、独自のアプローチで着物の伝承と普及に取り組まれています。『FUJIクロスゲート』内にオープン予定のセレクトショップについても伺いました。
着物を軸に広がる活躍の場
本日はよろしくお願いします!
こちらこそよろしくお願いします。
現在の活動について教えてください
メインの活動は、着物の販売·レンタル·製作です。弟と共同代表を務める会社『巧流-call-』は6年前に立ち上げました。地元·長崎にいた時に父と同じ和裁士になると決め、国家資格を取得したのが着物の道の始まりです。現在、着物を軸に様々な活動を行っておりますが、そのうちの一つが、東京·新宿御苑の着物サロン兼ダイニングバーです。元々あった古民家を改装し、1階はダイニングバー、2階は着物の販売·レンタルを行う予約制のサロンになっています。意匠登録をしている“誰でも簡単に1分で着ることができる”オリジナル着物もありますし、もちろんオーダーメイドで伝統的な着物を購入していただくこともできます。他にも、洋服生地で作った自宅で洗える着物や、洋服の上からコートのような感覚で羽織っていただける着物ガウンなどを製作·販売しています。
それから今年に入り、富士吉田市まるごとサテライトオフィス事業(富士吉田市全体を使って様々な事業者が市内にサテライトオフィスを手軽に持つことができる取り組み)を行うキャップクラウド株式会社との業務委託契約を結び、富士吉田に訪れる機会が増えました。キャップクラウドが運営するゲストハウスやショップが一体となった『FUJIクロスゲート』の一画で、こだわりのメイドインジャパンを集めたセレクトショップの立ち上げを担当しています。家具や備品の選定など、空間デザインからバイイングまでトータルで担っていて、弊社の着物も並ぶ予定です。
着物·浴衣ブランド『巧流-call-(コール)』を立ち上げて
会社立ち上げの経緯を教えてください
元々、祖父母が長崎で仕立て屋を兼ねた和裁学校を経営していて、父が二代目として後を継ぎました。僕も三代目になるつもりで弟子入りして、職人の道を歩み始めたのですが、継ぐ前に経営が立ち行かなくなってしまい…。九州にあった和裁学校がすべてなくなり、今も着物業界は縮小の一途をたどっていますね。父にも「この業界には先がないから戻ってくるな」と言われ、その後カーディーラーの営業マンになりました。屋内に籠って着物を縫うことが性に合わず、外に出て人と関わる仕事をしてみたいという気持ちもありましたね。
僕は三兄弟の長男で、弟が二人いるのですが、東京で美容師をしていた真ん中の弟が言ってくれたんです。「このままじゃ駄目だ、もう一度一緒に建て直そうよ」って。和裁業界を牽引していた元山家がなくなると着物はますます廃れていく一方だし、父をはじめとする職人の技術も途絶えてしまう。そんなもったいないことはできないよねって話をして、弟と一から着物屋を始めることになりました。とはいえ、営業マンになったばかりでまだ何も学べていなかったので、3年間は待ってもらいました。そして営業マンとして沢山のことを学ばせていただき、九州で営業成績一位になった後、ようやく6年前に上京しました。これまで祖父母や父がやってきたこととは違いますが、受け継いできたものを新たな形で世に出していけるよう、模索を続けています。
社名にはどんな意味が込められているのでしょうか
僕の名前の巧大もそうですが、『巧』は父の名前からもらっています。『巧』は職人の“巧みな”技術という意味もありますよね。“職人として尊敬する父の技術を持って世の中の流れを作る”という想いを込めました。それから “いろんな人にコールして(呼びかけて)いこう”という意味合いも。
弊社の着物は、全て父の会社で作られているんです。最初は僕たちのやり方に反対していた父も、時間が経つにつれて応援してくれるようになりました。父をはじめとする職人さんが、巧みな技術で僕たちのアイデアを形にしてくれています。
会社の方向性はどのように決まりましたか
まず色々なところに出向き、着物はなぜ廃れていくのか、なぜ着られなくなったのかという話を聞いて、リサーチから始めて。我々兄弟も、着物がずっとそばにあるのになぜ着ないのだろうと考えると、やっぱり着にくい、値段が高い、お手入れが難しいといった理由が浮かびました。なので、その“着ない理由”を取り払った着物を作ろうというところに着地しました。職人の技術を途絶えさせたくないという想いが一番にあって、そこがブレないよう、まずは生地を変えてみることから始めました。洋服生地だとリーズナブルだし、お手入れも簡単にできる。それを入り口に着物を好きになってくれて、その先に伝統的な絹の着物を身につけてくれる人が増えたら良いな、と立ち上げの段階で会社の方向性は決まっていましたね。
ダイニングバーと着物の掛け合わせはどのように思いついたのですか?
元々は着物サロンのみで運営していて、集客のためにもSNSやYouTubeでの発信活動に力を入れていました。ですが、観てくださる方が多い割に、来店には繋がりにくくて。他にもパーティーなど人が集まるところに参加しては地道に営業活動をしたのですが、予約制の着物サロンってどうしてもハードルが高く思われてしまう。どうしたら気軽に遊びにきてもらえるだろうかと考えていた時に、銀座でバーを経営されている方が「定休日にバーをやってみない?」と声をかけてくださって。そこで、着物で接客をしつつ、お酒を飲みながら着物に興味のあるお客さんにはサンプルを試着してもらうということを始めました。そうしたら「今度着物サロンにも遊びに行ってみるよ」と言ってくださる方が増えて、来店のハードルがグッと下がりました。着物を拡める一つの窓口として、飲食の力を体感できたので、そこから今の物件に巡り合い、このような掛け合わせが生まれました。
アイデアは弟との会話から生まれることが多いです。どちらかというと僕がいろんなものに興味を持つタイプで、やりたいことをあれこれ弟に投げて、それを「こんな形なら実現できるんじゃない?」と仕組み化してくれる。性格が真逆なので役割ははっきりと分かれていますね。元々やっていた美容師を辞めて、経営のことを一から勉強してくれた弟のおかげで今があると思っています。
今後予定している取り組みはありますか?
僕たちがアプローチしたいのは着物を着たことがない人たちです。中でもおしゃれが好きで、自分のスタイルを持っているような人ですね。例えばその人がパーティーに行く時に、いつもオーダーメイドのスーツを着ているのであれば、そのワードローブの中に着物が一着あってもいいと思うんです。着物という選択肢はいかがでしょうか、と提案をしていきたい。
実は今秋に巧流-call-が長崎に初出店することになりました。今年開業予定の『長崎スタジアムシティ』というアリーナや宿泊施設、商業施設などが一体となった複合施設の一画に出店します。ここではあえて着物ではなくヴィンテージの洋服をセレクトする予定なんです。その店を好きになってくださった古着好きのお客様に向けて、時折ポップアップで着物を並べ、古着と着物を組み合わせた着こなしを提案していきたいという考えです。“おしゃれだけど着物のことはわからない”という人にこそ、かっこよく着てもらいたいですし、そういう方に刺さらないと意味がないと思っています。
富士吉田で見いだす新たな着物マーケット
キャップクラウドと業務委託契約を結ばれた経緯を教えてください
少し前まで、富士吉田でサウナの経営をしていて、一時期は東京と富士吉田で二拠点生活を送っていました。サウナの仕事中にできる隙間時間にふと「この時間を利用して何か出来ないかな」と思い、リサーチしていた時にキャップクラウドの募集を見つけたんです。事業内容をみて“良い相乗効果が生まれるのでは”という直感が働き、こちらから連絡しました。僕は東京が拠点なので、業務委託という形で受け入れていただき今に至ります。
元々FUJIクロスゲートの一画をセレクトショップにすることは決まっていたけれど、バイヤーがいなかったので、一旦は僕が担当することになりました。そこに、弊社の着物も並べることで、お客様の反応を見ることもできます。特に富士吉田は外国人旅行者が多い町なので、海外の方がどういった反応をするか、どんな方が着物を購入されるか気になります。いつか着物を海外に持っていき、国を越えて楽しんでもらいたいという目標があり、そのためにも大事なステップと言えるかもしれません。
他にも、国内で作られたこだわりのあるものをセレクトしていて、器やストール、着物、バッグなどの手仕事が並びます。和紙100%のTシャツは「着物と合う洋服がわからない」という声から生まれた、巧流-call-オリジナル商品。着物にもしっくりくる素材と形に仕上がりました。こだわりを感じるものを見たり買ったりすることが好きというのが根底にあるので、アンテナは自然に張っていますね。好きの延長でお店に合うものをセレクトしています。
富士吉田のアピールポイントがあれば教えてください
富士山を初めて間近で見たときは圧倒されました。これまで近くで見る機会がなかったのですが、富士吉田から見る富士山の近さ、大きさは圧巻です。水も美味しいですし、豊かな自然は一番のアピールポイントだと思います。以前、富士吉田で経営していたサウナは自然に囲まれた場所だったので、働きながらもリフレッシュになっていました。東京での仕事は、昼は着物の活動、夜はバーなので、全く違う環境。でも、どんな仕事においても好きの延長なので、大変だとは思っていません。
ドットワークプロジェクトに期待されることはありますか?
都心に住む方や働く方、いろんな職種の方が集まって、そこから何かが生まれたら良いですね。他の地域に住まれている方にとっては来るだけでリフレッシュになると思いますし、ここで生まれるアイデアもきっとあると思います。新たに出会った人同士で何か出来たらさらに面白くなっていく気がしています。
僕自身は、ドットワークPlus·ドットワークPlus Labの手芸部に入れてもらったので、そこで皆さんが作りたいものをどうしたら形にできるか一緒に考えてみるなど、交流を楽しみつつ、僕にできることがあればやってみたいですね。
元山巧大さんからのメッセージ
以前、二拠点生活をしていたこともあり、そういった暮らし方·働き方はかなりお勧めです。同じことをしていても環境が違うだけで、不思議と思考が変わりますし、一箇所に留まっていると生まれないものもあります。移動する生活は精神的にも穏やかでいられますし、一度やってみると気に入るかもしれません。
和服はハードルが高いと思われがちですが、洋服と同じようにファッションの一つですので、自由に恐れず着てみてほしいです。インスタグラムで洋服と掛け合わせたスタイリングをご覧いただけるので、参考にしていただけると嬉しいです。
巧流 -call-
https://www.instagram.com/call_kimono
◯「富士吉田市まるごとサテライトオフィス」とは
「富士吉田市まるごとサテライトオフィス(略:まるサテ)」は山梨県富士吉田市全体を使って、様々な事業者が富士吉田市内に自分のサテライトオフィス(企業または団体の本拠地点から離れた場所に設置されたオフィス)を手軽に持つことができる取り組みです。
(詳細:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000093585.html)
◯富士吉田市まるごとサテライトオフィスでは取材に応じてくださる方を募集しております。
「地域活性や街づくりに興味がある!」
「今こんな活動をして街を盛り上げている」
「頑張っている人がいるので記事で紹介してほしい」
「面白い構想があるのでこんな方と繋がりたい」などなど。
ひとつでも当てはまったら是非ドットワークPlusにいらしてください!
写真·記事執筆/高井まつり(KINONE)