オンライン×リアルの対話で課題を見定め、自己と地域の可能性を最大化する【地域課題解決型ハッカソン vol.2 丸幸産業】

 

1,000年超もの歴史を誇る、富士吉田の織物産業。これぞ職人技といえる高い技術とプライドが築いてきた伝統産業の世界に、DX化によるアップデートの熱が今静かに高まり始めている。

 

DX化の要であるシステム開発を手がけるのは、神奈川県横浜市のプログラミングスクール「ディープロ(DPro)」の受講生たち。エンジニアの卵と、地元の機織企業の有志が数ヶ月をかけてともに課題解決のためのシステム開発を行う。それが「地域課題解決型ハッカソン」だ。

 

在庫管理アプリを開発した第1回(参加企業:舟久保織物)に続き、今回はその第2回。参加する企業は布の後染め・後加工を専門とする丸幸産業。それまでオンラインで課題感のすり合わせや現状ヒアリングを行ってきた受講生たちが、2024年3月29〜30日、実際の工場現場を訪れた。プロジェクト全体から見れば、ターニングポイントともなりうる重要な機会だ。

 

与えられた時間は2日間足らず。果たして、両者間ではどのようなやり取りが行われたのか? 見えたものはあったのか……その一部始終をレポートする。

 

与えられたのはたった2日。現場でどれだけの材料を得られるか

 

「DX」とは簡単にいえば、デジタル技術を活用して企業の仕事のあり方を変え、その成長を促すこと。手作業によるアナログな業務が多いがゆえにDXがなかなか進んでこなかった富士吉田の機織産業だが、神奈川県のプログラミングスクール「ディープロ」の受講生たちとの協業で課題解決に取り組む「地域課題解決型ハッカソン」が2023年からスタートしている。

 

>>第1回の実施レポートについてはこちら

 

その第2回の参画企業として名乗りをあげた丸幸産業は、創業から半世紀以上にわたり、染め物加工業を営んできた。生地として織られる前の糸を染める「先染め」ではなく、生地や製品を後から染める「後染め」の技術を持つ。国内外の一流ブランドからも信頼を寄せられる染色技術の高さで、OEM生産などBtoBを中心に事業を伸ばしてきた。

 

 

近年では、自社のECサイト等を通して個人からの染めオーダーにも対応したり、オリジナルブランド「ROUND HAPPY」を立ち上げるなどBtoC向けのアプローチも積極的に展開。よりBtoC事業を推し進めていきたい……というのが、今回「地域課題解決型ハッカソン」に参画した理由の一つだったという。

 

その思いを引き受けるのは、プログラミングスクール「ディープロ」の受講生たち。「地域課題解決型ハッカソン」は、そのオンライン講座の最終卒業課題として位置付けられている。エンジニアスキルを身につけて転職したい、仕事に生かしたいと考えて学んでいる受講生たちのため、自らの「実務経験」にも直結する本プログラムへの熱意は、真剣そのものだ。

 

 

2024年3月29日〜30日は、受講生にとって初めての現場訪問。2日間という短い時間の中で、課題の見極めやアイデアソン(特定のテーマの元で、決められた制限時間・期間内で新たな商品企画やビジネスモデルなどの「アイデア」を出し合うイベント)が行われた。

 

<2日間のスケジュール>

1日目
13:00 開場、受付開始
13:15 開会、市の事業説明
13:20 メンター紹介
13:30 丸幸産業からの課題共有
13:45 丸幸産業の工場見学へ、質疑応答タイム
15:45 工場見学終了
16:00 Labへ戻る
16:10 ワークショップ開始、各チームに分かれた上でディスカッション
17:10 中間発表
17:30 1日目終了

2日目
10:30 丸幸産業工場にて自由ヒアリングタイム
12:00 昼休憩
13:00 仮開発作業
14:00 アイデア案プレゼンタイム
14:30 事業者コメント、メンターコメント
14:45 閉会、解散

 

集まった受講生は全部で5名。さらに過去の卒業生などメンター役を務めるスタッフも含めて10名ほどが富士吉田に集まった。

 

 

まずは富士吉田の機織産業のオリエンテーション。次にこれまでのヒアリング内容を確認しつつ、改めて自己紹介を行った。なにしろ授業はすべてオンラインでの受講となるため、受講生と丸幸産業のお二人はもちろん、受講生同士もこの場が初対面。意気込みを語り合ったら、早速現場となる工場へ向かう。

 

 

2日間の長丁場に思えるが、受講生たちは閉会までに自分が取り組む課題を見定め、そこにどのように取り組むかの方向性を提示しなくてはならない。限られた時間でどれだけ情報を集め、深く思考し、本質的な課題を自分で定義できるかが問われる。

 

いざ工場へ。情報収集の鍵は「想像力」

 

車で約15分。移動した丸幸産業の工場で、代表取締役社長の堀内茂利さん、広報を担うご長男の洋平さんのお二人から、実際の染め物の工程や業務内容に対する説明を受ける。

 

 

業務フローで課題と思っていることは? 今現状の顧客像はどういった方々か? ……まったく未知の業界である「染め物」の世界に対して、次々と質問を投げかける受講生たち。

 

質問の過程でも、「今お話を伺っていて、例えばこうした案はどうかと考えたんですけれども、実際可能なんでしょうか? どう思われますか?」といった提案レベルの話もどんどん出てくる。一瞬一瞬が、アイデアソンの一環なのだ。

 

▲事業を支えるのは数十年前に開発されたコンピューターソフト。
現場では命よりも大切な必需品だ

 

 

▲大学を卒業後、Uターンした洋平さん。

家業を継ぐと決め、外資系企業でのインターン時代に広報的な役回りに従事した経験を活かし、プロモーションや商品企画を率いる

 

 

染色技術は、目指す色にいかに忠実に近づけるか、そのために染料の配合技術に加え、生地本体の状態を読んで適切な染め方を判断していく総合的な職人芸が必要となる。最初の配合技術こそ、色見本を計測し、染料の配合を割り出してくれる自動化が行われているが(コンピュータ・カラーマッチング)、これも30年以上前に多額の資金を投じて導入されて以降、変わっていないという。

 

コンピューター黎明期を感じさせるアナログ感に、受講生からは「おお……」という感嘆とも呻きともとれる声が漏れる。

 

 

工場で、染色機をはじめとする染色を担う設備群も見学する。年季の入った大型の機械は、薄暗い工場の中で鈍い輝きを放ち、受講生たちを圧倒する。ずらりと並んだサンプルは、実験的に染めを試したもの。ショールームのようなクールさがあった。

 

 

 

泥臭い職人の作業場、というイメージからは遠く、実直に技術と向き合い、新しい可能性を模索し続けるものづくりの現場ならではの、時間が織り込まれた力強い空間。「写真も動画も自由にどうぞ」という洋平さんの声を受けて、皆、思い思いに撮影やメモをとる。もちろん、質問も重ねながら。

 

 

想像以上の手作業の世界、そしてオンラインの対話では見えてこなかった課題群。圧倒的な情報を前にした受講生たちを前に、「ディープロ」の代表である野呂浩良さんは言った。

 

「皆さん、前回のこの課題解決型のアイデアソン、ハッカソンは、現場でどういうものを使って、どう操作をしたり運用してるのかということに対して、後から質問がものすごく出ました。使う方がどういうふうに使って、どういうふうに業務を行っているのか、ぜひ想像しながら見てみてください」

 

 

課題を抱える企業側にとってみれば、どれも日常業務の範疇であり、当たり前の工程。それを業界外の視点に落とし込んで説明することは難しい。工程をよりリアルに理解するには、課題解決を提示する役割であるエンジニア側が、自らの質問力で引き出す以外にない。そのためには、想像力が鍵を握る。

 

 

実際にエンジニアとして働き出した先では、何度もヒアリングを重ねることが許される案件ばかりとは限らない。だからこそ、貴重な機会でできる限りすばやく価値ある情報を引き出すことが、基本姿勢として重要なのだ。

 

エンジニアが業務上でどれだけ発注側に寄り添った提案ができるかーーどこまで行っても「門外漢」であるからこそ、想像力を味方につけて疑問を編み出し、聞く姿勢を傾ける以外に解決策はないのかもしれない。

 

 

工場でつかんだヒントを元に、アイデアを出し合う

 

たくさんの気づきを工場から持ち帰った受講生たち。1日目の最後となる中間発表を目指し、早速ディスカッションがスタート。まずはどこが課題なのか。そしてその要因はなんなのか。講師からの質問に促されて、受講生が順々に話していく。

 

 

「業務フローをマネジメントできていないことではないか」
「注文を受ける問い合わせフォームを改善したら」
「個人客からの染めのオーダーに対して、仕上がりと異なったりするエラーが発生することを防ぎ、問い合わせが来ないようにすることで、フローが安定するのでは」
「染めを発注する際に、染める服の素材を確認するための材料が、注文する側に提示されてない、もしくは見づらいというのはあるんじゃないか」

 

 

エンジニアという領域で各々が具体的な改善策を提示する中で、さらに大きな枠組みでの仮説も、受講生からは飛び出した。

 

「安いものとか、あんまり『染めがい』がないというのか、これだったら新しく買ってもらった方がいいですよっていうものもあるのかなと。 (サービスを)買う側がどういうスタンスで買ったらいいのか……大事だけど汚しちゃったから染めたいという思いなのか、染めるっていうこと自体をやったことがないから試しに染めてみたいというのか。だけど、試しでやるのは高いんですよ、だったら……(それは正解なのか)。

丸幸さんがどういうお客さんを獲得したいか、どういう売り方をしたいのかによってマーケティングの仕方が変わってくるのかなって。(丸幸さんが求めるゴールが)染めてほしいと思ったのか、染めることを体験してほしいかなのかは、全然違うな〜と」

 

 

それぞれの視点で受講生が考えをめぐらせる中、野呂さんが声をかける。

 

「自分が卒業課題として取り組みたいものをまずは定めること。ここで何か1つのベストな解を求めてるわけではないので、どういう内容をどう考えて、それが何のメリットを出すのか、発表していただきましょうか」

 

15分の時間を与えられて、受講生たちはまた各々の考えをまとめ始めた。発表と施策を細かく交互に行うことで、だんだんと自分の考えや目指すゴール、そこへの構築プロセスが見えてくる。

 

 

この日の最後に、ディスカッションのファシリテーターを務める杉本祐亮さん(株式会社YS.works 代表取締役社長・ディープロの卒業生)が言った。

 

「課題って本当に無限にあるんですよ。よくありがちなのが、課題を解決したと思って作ってみたら意外とそうでもなかった。課題は解決したんだけど大した変化がなかった……というようなことですね。じゃあなぜそれが起こってしまうのか。

課題があって解決策を考えるっていうのはもちろんなんだけど、『その先にどういうメリットがあるのか』っていうのが明確化されてないといけない。ただその課題が解決したからって、そこにメリットがあるのかはわからないんです。そうする(メリットを考える)と、課題の優先度が出てくる、何を先にやるべきかっていうのが自ずと見えてきます。

……自分たちが提供するシステムで確かに課題を解決できる。じゃあそれがメリットに繋がるのか。あとはそれを使っていただくお客様がちゃんと簡単に使えるものになるのか。そういったところまで見通せてシステムを検討していただくと、いいものができると思います」

 

 

真の課題はどこにあるのか。受講生それぞれが導き出した回答は

 

2日目。この日は各々の活動となる。どこまで発表内容を組み立てるかは各人に任されているが、午後2時にはアイデア案をプレゼンしなければならない。ある受講生は工場に再び向かい、ある受講生は注文サイトの動線をどう変更すべきか提案をまとめたフロー図をまとめ、またある受講生は実際の操作画面のモックアップ(ビジュアルイメージ)を作りはじめたり……。

 

お昼休憩を挟みながら、あっという間に14時。全部で4組(5名のうち、方向性を同じくする2人がペアを組んだため)、それぞれ全力を尽くしたプレゼンが行われた。

 

煩雑になってしまっている問い合わせフォームをLINEの公式アカウントを利用して一本化する策。

購入から注文依頼までを一貫して担当できるようなシステムの開発。

初めて染めを依頼する人が、実際の仕上がりをイメージできることでクレームリスクを減らす枠組みの提案。

丸幸産業のお客様の依頼品を大切に扱う姿勢を生かした上での、注文フローの効率化。

……それぞれに、ここが要所だろうと思った施策を考え抜いた上での提案が揃った。

 

 

すべての発表を見て、丸幸産業の二人はどう感じたのか。

 

「2日間だけで、僕たちが心配している問題をこんなに把握していただいて、お客さんが本当に安心するような方向に作っていただけるようなので、私も安心して注文を出せるような感じがものすごくしました。ありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします」(茂利さん)

 

 

「実際に工場に来ていただき皆様の対応をさせていただいて、自分たちも勉強になりました。この2日間を通して会社自体もどのように進んでいくべきかっていうのをしっかり伝えることができたと思います。実装まで時間はまだあるかと思うので、いつでもご連絡を取りたい時はヒアリングなども対応していきますので、実装まで一緒にできればいいなと思います」(洋平さん)

 

 

これはまだゴールではない。とはいえ、ハードな2日間を乗り越えた受講生たちには、確かな手応えが残ったようだ。彼らが口を揃えて語ったのは、「丸幸産業さんや周りの皆の熱意に動かされた」ということ、また、オンラインではない、対面でのコミュニケーションによって得られる価値の大きさについてだった。

 

「プログラミングというのは問題解決の一つの手段であって、このアイデアソンっていうのは、さらにその先の企業様と寄り添って、地方と寄り添って、どうやってステップアップしていこうかという、まず最初の一歩なんだろうなと……すごく考えさせられる機会でした。

僕は地方創生に携わることが今回初めてだったんですが、その熱量。自分一人で言われたことをやるだけでは済まなくて、もっともっといいアイデアを、と背中を押されるような雰囲気をすごくもらいました。時間内にモックアップを作り切るのは難しいことだったんですけど、なんとかできたのはエネルギーをもらったからかなと思います」

 

「実際現地に来て、何を大切にされてるかとか、対面のコミュニケーションでしっかりとキャッチボールしないと出てこない部分ってあるんだなっていうのをすごく感じました。

あとは今回参加された皆さんの熱量がすごいと思いまして……私、キャリアとして何をしていくかすごく迷っていたんですけど、今回、いろんな方からすごいパワーをもらって、挑戦してみてもいいかなって感じられた、すごくいい機会でした」

 

 

彼らが走り切るまで、あと1ヶ月。それまでに、今は想像のついていない未来まで、どれくらい高く遠く飛べるのか。その答えは、これからも続く丸幸産業との対話の中にしかないのかもしれない。そしてその未来は、そのまま新たなキャリアを開く扉と、まっすぐ繋がっているに違いない。

 

 

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🌾今回の取り組みは、山梨県富士吉田市の主催する富士吉田市まるごとサテライトオフィスIT人材育成事業(委託先:キャップクラウド株式会社)の一環です。プログラミングスクール「ディープロ」を運営する株式会社ダイビックから相談を受け、2023年11月より富士吉田市にてスタートしました。今後も、DX化を目指す富士吉田市の各機屋と「ディープロ」受講生を結び、協業による地域課題の解決、地域産業の繁栄を目指します。

 

▼「富士吉田市まるごとサテライトオフィス」(略称:まるサテ)に関する詳細はこちら
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000093585.html

写真・記事執筆/吉澤志保