「地方こそ、人の繋がりとテクノロジーが必要だ」DX成功の秘訣とは【地方経営アップデートDAY&交流会 開催レポート】

 

人手不足、次世代を担う若手の不在、デジタル化による市場や販路の多様化、消費者ニーズの変化、結果として訪れる売上減少……地方産業が抱える課題は山積みだ。それらの課題を解決すべく、国が推進するのがご存知の通り、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」である。

 

とはいえ、そもそも目の前にある仕事で手一杯なのに「DX」なんて、具体性がない概念を推進せよ、と言われても、一体どこから手をつければいいんだ……と、途方にくれてしまう人も少なくないだろう。

 

  • DXって何をどう変えればいいの?
  • どうやって進めればいいの?
  • 基本的なことがわからないんだけど、今更だれに聞けば……
  • 多額の費用がかかるんでしょう、うちにはそんな予算もないし……

 

など、モヤモヤが山ほど出てくるDXに対して、解決をはかるべく開催されたのが「地方経営アップデートDAY&交流会」。DXを進める上で必ず押さえておきたい基本的なところから共に学び、同じ課題感を持つ人同士で繋がろう、という趣旨のイベントだ。

 

掲げたスローガンは、
「地方の産業こそ、人との繋がりとテクノロジーが必要だ」ーー

 

全3回で行われたイベントでは、DXの基本はもちろん、推進する上で何より大事な「考え方」が共有された。残念ながら当日参加できなかった方のために、その内容を本レポートではシェアしたい。

 

「人との繋がり」こそが目の前の課題解決に繋がる

 

「地方経営アップデートDAY&交流会」が行われたのは、富士山駅直結の商業ビル「Q-STA」の2階にあるコワーキング施設、「ドットワークPlus Lab」。イベント名が示すように、「交流」が目的の一つでもある。というのも、人材があふれている東京などの都市部に比べて、人材が限られるこの富士吉田市では、「いかに繋がりをつくるか」が今目の前の課題解決にとって大きな助けになりうるからだ。

 

 

交流自体を目的と掲げているからこそ、3回に渡って行われたイベントでは「経営のアップデート」という重いテーマを掲げながらも、終始カジュアルな雰囲気で講師からのレクチャーやワークショップが行われた。参加者は、山梨県内の会社経営者の方を中心に、地域おこし協力隊の方、各地を旅しているワーカーなど、様々な職種、働き方の人が揃った。

 

【第1回】とにかく「気になること」を出す、課題として認識する

 

第1回に登壇された講師は、BPOテクノロジー株式会社の香西佑香さん。オンラインアシスタントサービス「フジ子さん」などのサービス運営を行う同社で、企業に対してDX化の提案、サポートを行う部署を率いる。

 

前段の座学では、香西さんがDXについてのそもそもの考え方をレクチャー。DXに興味をもった企業、DXを検討し始めた担当者などが、絶対におさえておきたい部分を、とにかくわかりやすく懇切丁寧に解説してくれた。

 

 

たとえば、「DXと業務効率化の違い」について。どちらも職場における現状の課題解決の文脈でよく聞くワードだが、意味するところは異なる。漠然とした概念を指す「DX」は、個人間で齟齬が生じがちだ。また、真に意図するところを理解できていないと、ツールの導入などいわゆる「手段が目的」化することが起こりうる。あるいは、検討途中で頓挫して、ただ時間や手間の浪費に決着してしまう……ということもめずらしくない。

 

だからこそ、本来の目的(着地点)を見失わないことだと、香西さんは念を押した。

ちなみに、ツール導入が目的になってしまう「よくある失敗例」に関しては、

 

  • 業務効率化やDXの目的やゴールを、経営層や現場の意見を交えて、しっかりと議論する
  • 現状分析を徹底し、業務の課題や改善点を明確にする
  • ツール導入後の運用や定着化までを計画する

 

ことが、回避策とのこと。

 

 

後半のワークショップは、とにかく「課題出し」がメイン。2つのチームに分かれて、各々が「今困っていること」についてトークを交わした。

 

このワークショップの狙いは、自分の会社の課題に「気づいていない」状態から、「まずは課題があることを認識すること」にあった。実はこれが、とにかくすべてのベースの考え方になるといっても過言ではない。「私/うちの会社には、直近での課題はない」と思ってしまうと、何も進まないからだ。

 

 

少しでも日頃からストレスを感じていたり、気にかかっていることを、まずは土台に上げる。それに対して思っていることを言い合うと、だんだん「やるべきこと」の根幹が見えてくるのだ。

 

その場で「課題」として挙げられた一つが、「組織で上席に提案を通そうとしてもなかなか通らない」というもの。一見すると、「それはDXに関係するのか?」と思われるかもしれない。だが、これが本当に「デジタル技術で解決できないもの」なのか、その時点ではわからないのだ。

 

たとえば、上司が納得できるデータを短時間で簡単に算出することができたら、どうだろう? あるいは、AIに「上司に話を通すためのシナリオを教えて」と問いかけてみたら? ーーデジタル技術で解決できる可能性は無限にある。

 

ポイントは、内容がDXに関連するかどうか、ジャッジを挟まないこと。また、「特に困っていることはない」と決めつけるのではなく、改めて見直してみること。とにかく課題出しをしてみよう、と気楽に構えてどんどん出していくことで議論が活性化し、解決の糸口が見えてくる。

 

 

【第2回】顕在化した課題に対してどうフォーカスするか?を考える

 

第2回の講師は、株式会社ダイビックの代表・野呂浩良さん。4ヶ月という短期間で実務経験レベルの実践形式の授業を受けられるオンラインプログラミングスクール「ディープロ(DPro)」を運営している。

 

 

そんな超実践的スクールらしく、ワークショップも実践的なものに。といっても、参加者たちはエンジニア志望者でもない。ここで目指したのは、「課題に対しての解決姿勢の実践」。エンジニア的なアプローチを身につけるための練習のような場だったと言い換えてもいい。

 

2つのチームに分かれ、事前に伺った具体的な課題に対して、各班ごとに「どうすれば業務改善ができるか」を話し合った。課題の一つは、ある協会のボランティアスタッフの方から持ち込まれたもの。電話の問い合わせ窓口に対して、他の団体に関する問い合わせが頻繁に来るという。他の団体に関しては知識が不足しているため答えられないが、本来の問い合わせ先を伝えるなど次のアクションに繋がる案内をしたい……というものだった。

 

 

ディスカッションの場では、多くのアイデアが挙げられた。担当者の知識量の違いで答えられるか否かに差が出てしまうことがないように、情報をデータベース化して、誰もが答えられるようにする、といった具体策から、「全国の協会を一括で管理してしまえばいいんじゃないか」といった大きな枠組みの解決策まで、あらゆる意見が交わされた。

 

 

そして最終的に出たのは、「ヒアリングシートを用意して、電話の内容を問い合わせ窓口の担当者が記入する。記入された質問とそれに対しての回答を、データベースとして協会で蓄積していくことにより、同様の質問がきた時に誰もが同様の受け答えをできるようにする」……というもの。ヒアリングシートという、非常にアナログなツールに落ち着いたのは、協会の人たちが必ずしもデジタルに明るい人ばかりではないから、という背景を踏まえた結果でもある。

 

 

もう1組でも、課題に対して熱い議論が交わされ、時間内にチームとしての結論にまでたどり着いた。DXを成功させるためには「手段が目的にならない」ようにすること。第1回で学んだことが、第2回にもしっかり繋がっていた。

 

 

【第3回】いざDX!プロジェクト始動後の課題解決の流れをシミュレートする

 

第3回の講師は、安西翔平さん。2021年から広島県江田島市に移住、システム開発やITコンサルなどを行う合同会社GeneLeafを運営し、日々行政や地方企業のDXを推進する立場にいる。ステップを踏む形で、DXを進めていくための知識や考え方を徐々に学んでいった全3回。その最後を飾るだけに、一番「現場」感の強い内容になった。

 

 

前半の座学では、安西さん自身の経験から地域におけるDXの実践事例の紹介、地方でDXを成功させるための必須スキルなどのレクチャーが行われた。

 

 

そして後半のワークショップでは、「課題解決までの一通りの流れの中で、何を考えなきゃいけないのか」というのを具体的に自分の頭で考えていく……というものだった。一人一枚、解決までのフレームワークが描かれたシート(紙)を受け取る。話し合いもしながら、各々がシートを埋めることで、顕在化された課題に対して、自らの頭でエンジニアの思考プロセスを体験するように、課題解決までの流れを実践していった。

 

 

課題が顕在化した後の流れを体験する、なかなかハードなトレーニング形式だっただけに、この回は苦労した人も出た模様。まさに、企業で実際にDX推進プロジェクトが走り出した後の担当者が直面する状況ともいえよう。開発を請け負うエンジニア側としても、学びがある内容だったかもしれない。

 

 

重要なのは「正しく現状をとらえる」、そのために「他者を知る」こと

 

「DX」とは、デジタル技術の活用によって、今ある仕事のあり方をダイナミックに、よりよく変革すること。そのためには大前提として、課題をしっかりと捉えることが肝心だ。そして、課題を「認識」するためには、その手前として、「他者を知らないといけない」。つまり、「他所(よそ)がどのように仕事をしているのか」を知らないことには、「うちは現状で十分だと思っていたけれど、まだまだ改善する余地があるのかも」と気づくこともできない。

 

 

全3回で、徐々にDXというものに対しての解像度が上がっていく組み立てになっていた「地方経営アップデートDAY&交流会」。

 

各回を一言でまとめると、

 

第1回は気づきを得る
第2回はエンジニア思考の実践
第3回は課題解決の流れを掴む

 

といったところになるだろうか。

 

第1回参加者の一人からは、嬉しいコメントが寄せられた。

 

“祖母の代以上から続く実家の店で、家族全員が店頭に立っており、注文から売上の管理まで全てアナログで業務を行っている。今まではITリテラシー的にお店のDX化はあきらめていたが、今回のイベントで様々なIT人材からアイデアやツール提案があり「意外とできることがあるのかも」と勇気づけられた”

 

その方は、今後、実際にツール導入も検討しているという。イベントを開催する意義の一つは、誰かのDXへの意識をポジティブなものに変え、前向きに次の行動へ踏み出すきっかけとなること。メンターとして参加者をサポートしていたエンジニアの藍野啓さんは、全3回を振り返ってこう語った。

 

 

「知らなければ、できるかできないか、直せるか直せないかが、そもそもわからない。『自分の作業の中で、もっと効率的にできるな』というのは、(知った上で)考えないとわからない。……それを理解する上では、こういう知識というのはすごく必要かなと思います。

 

実際には、『今のやり方が一番いいからこのやり方でやっているんだろうな』と思ってしまっている人がほとんどだと思うんです。『もっと(タスクにかかる時間を)短くできる』というのは、他の場所の事例だったりを知らないとできない部分だと思う。
そういうのを考える機会ってあんまりないのが現実だと思うので、自分としてはこういうイベントはどんどんやっていった方がいいかなと思います」

 

知ること、そして、自ら課題を解決する能力を身につけること。DXを進める担当者には、この両輪が必要だ。

 

仮に有り余る予算があったとして、会社の課題をしっかり見極めることなく外部の企業に丸投げしても、課題は解決しようがない。何が課題なのか、その解決のために本当に必要なのは何なのかーーそれが見定められない担当者は、開発会社やコンサルタントが提案してきた提案内容が適切かどうかも見極められない。だからこそ、DXを本気で実践し、今よりもっと良い未来を手にするためには、私たち一人ひとりが、DX的発想を身につけることが必須なのだ。

 

 

「地方経営アップデートDAY&交流会」というタイトルには、経営(力)としてのアップデートだけでなく、自分の中の認識や知識をアップデートすることも含められている。そして「個人」としてのアップデートは、自分一人だけではなしえない。他者という存在を通して鏡のように自分を見直したり、知恵や知識を分けてもらったり。「デジタル」で成果をあげるためには、至極人間的で真っ当なアナログコミュニケーションが不可欠。

 

「DX」や「デジタル」と行ったワードに少しでも気後れや拒絶反応を抱いてしまっている人は、ぜひこの大前提を胸に、気楽に挑んでみてはいかがだろう。「ドットワークPlus Lab」には、そのための機会やスペースが用意されている。

 

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🌾今回の取り組みは、山梨県富士吉田市の主催する富士吉田市まるごとサテライトオフィスIT人材育成事業(委託先:キャップクラウド株式会社)の一環です。「DXに興味がある」「職場の現状を変えたいがどうすればいいかわからない」などのお悩みから、「他の企業や業界の人と意見交換をしたい」などの交流目的まで、より良い働き方を実現するための機会を、様々なアプローチで提供しています。

 

▼「富士吉田市まるごとサテライトオフィス」(略称:まるサテ)に関する詳細はこちら
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000093585.html

 

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写真/伊藤美香子(第2回開催時)

記事執筆/吉澤志保