富士登山に新たな風!一年中楽しめる富士山ツアーを提案する”thousandth”の『千代 慧』さん
世界的な観光地として知られる富士山とその山麓地域。夏のハイシーズンには、その自然の魅力を大いに楽しめるアクティビティの数々を目当てに多くの観光客で賑わいます。一方で冬季には、その厳しい寒さや降雪により、夏の喧騒が嘘のように客足が遠のくという、観光業にとっての長い冬が訪れるのがこの地域のこれまででした。そんな富士山とその山麓地域の冬季を含めた四季それぞれの魅力を紹介する新たな取り組みが始まっています。今回は、これまでになかった冬の富士山や富士山麓の魅力に触れられるガイドツアーを提供する『thousandth』の代表、千代 慧(ちしろさとし)さんにインタビュー。千代さんが富士吉田に移住されたきっかけや今取り組まれているご活動、これからの富士吉田市の未来などを聞きしました!
thousandth
『湖畔テラス Outdoor Wine Session』
https://thousandth1000th.net/wp-content/uploads/2021/12/78d0a586446b03f63896f21b2d8902e4.pdf
▼千代慧さんが富士吉田に移住したきっかけ
今回のインタビューに答えてくださったthousandthの千代 慧(ちしろさとし)さん
本日はよろしくお願いします!
こちらこそよろしくおねがいします。
千代さんのこれまでのご経歴を教えてもらえますか
僕の出身は神奈川県の鎌倉市から引っ越し、家族と富士吉田市に住んでいます。仕事も観光が盛んな地域に長く居たので、観光地に縁があるのかもしれません。高校の時はアメリカのアイダホに、大学の時はオーストラリアのシドニーにそれぞれ留学した経験もあります。その留学先で出会った人たちみんなに日本食を楽しんでもらえた経験から、日本の文化の面白さに改めて気づきました。それで帰国後、青山にあるレストランで働き始めたんです。
でも、いざ働き始めたら「料理と接客なら、接客の方が向いているね」と薦められて、接客サービスのクオリティを上げていくことを決意します。数年後にはソムリエの資格も取りました。
レストランサービスで経験を重ねていましたが、飲食業界に限らず、さまざまな方法で接客技術を高めて活躍の幅を広げたいと思い、大手リゾートホテルに就職したんです。そこでは施設の開業から実際の運営、従業員のマネジメントやお客さまに提供するアクティビティの造成まで、宿泊にまつわるさまざまことを約10年かけて経験しました。その中で河口湖と八ヶ岳の2施設に関わった経験から山梨県の良さを存分に感じることができました。
山梨県でのお仕事で、どんなことを感じましたか?
10年勤務した中で、4つの施設の立ち上げと運営に関わり、お客様をもてなすためには、”ハード”と”ソフト”のバランスが必要であると強く感じました。”ハード”として快適な環境やデザイン性の高い施設がお客様の期待値をあげていくし、一方で暖かなサービスをするスタッフや魅力的なコンテンツとなる”ソフト”の充実がお客様の満足度に大きな影響力があるのだなっと。その考えの元、実際にホテルで提供するアクティビティの造成に関わり、提供する内容やそこに携わる人たちと一緒にプロジェクトを進めていくことにやりがいを感じました。また多くのお客様から厳しいご意見やアドバイス、そして心温まる感想をいただくことができました。その経験値やノウハウを活かし地域のために役に立てないかと考え、、観光アドバイザリーとして観光業のソフト面の開発のお手伝いもさせて頂いています。
お客さまをガイドする千代慧さん
一方で、河口湖や八ヶ岳で働いているときに山梨には地域ならではの自然や文化が多く、その独自の魅力に対してポテンシャルを感じていました。特に富士山・山麓地域は、世界的観光地であるにも関わらず、五合目から上の富士登頂が主流となり、一年で見ても秋から翌年の山開きまではオフシーズンとして、観光客やガイドさんの仕事も大きく減ってしまうのが現状です。これは裏を返せば、世界的観光地である富士山・山麓にもまだまだ伸びしろがあるという捉え方ができると思っています。それこそ、富士山という一流のハードがあるこの地域に、オフシーズンでも対応できるソフトが揃えば、通年を通して世界中からお客さんが訪れてくれる観光地へさらに成長できるのではないでしょうか。
そのためには魅力の発掘から、コンテンツ造成、そしてそれを提供できるガイドさんの育成という具合にトータルでプロデュースしていく必要があると思っています。とはいえ、まずはやはり自分が経験しないと良いソフトは作れません。そこで2022年に富士吉田市に移住して、『thousandth』を立ち上げ、現在では富士山・山麓エリアの魅力を伝える活動をしています。
▼新たに立ち上げられたthousandthについて
ソムリエの資格を活かし、10月〜12月には河口湖の老舗ホテルでワインアクティビティの『Outdoor Wine Session』も提供
『thousandth』について教えて下さい
日々の生活の中で、自然・歴史・文化を身近に感じ、大切に想うことができるような心豊かな生活をおくりたい。観光のチカラで住んでいる街の良いところを再発見し、さらに魅力のある街になっていくように活動していきたい。そんな二つの想いが大きくなり立ち上げたのが『thousandth』です。
1年中楽しむことができる富士山5合目までの信仰登山の歴史的背景、ユニークな動植物の生態系を案内する『エコツアーガイド』。そして、観光を盛り上げるパートナーとして、企業様や行政向けのソフト開発をサポートする『観光アドバイザリー』といった事業を提供しています。どちらもソフトを充実させ観光シーンを盛り上げる事業ですが、これは先ほども話したように富士山というハードに対して、まだソフトのポテンシャルが残されていると思っているからです。
富士山のポテンシャルについて教えていただけますか?
例えば、ポテンシャルのひとつとして、冬の富士山が挙げられると思います。地元の方たちの多くは、富士山が夏のものであって、そのほかのシーズンを固定観念的に閑散期として捉えているように感じます。もちろん、冬の富士山登頂は単独峰で風雪がひどく、非常に難易度の高い山として知られています。一方で、1合目から5合目は雪山が初めての人にとっても、登りやすい難易度だと思います。また、低部の登山道は植生も豊かで季節感が色濃く反映されるので、春には春の、秋には秋の良さが感じられる、魅力が詰まったルートだと言えます。富士山といえばどうしても目線が高くなり、五合目から山頂を目指すコースにフォーカスされがちですが、少しだけ低部に目を向けることで、どの季節であっても、その魅力を余すことなく活用できるのではないかというのが僕の考えです。
そのため、現在は冬の富士山を満喫できるアクティビティを計画中です。通年の運用が可能になれば、地域単位で定常的に人流を確保することができるようになります。この冬の富士山を活用する意義は、この地域だけに止まらないと考えています。というのも、日本には多くの名山があり、登山客の人流を経済的な支柱としている地域も同様の社会課題を抱えています。冬の富士山の活用が可能になれば、それらの地域でも閑散期の人流を底上げできるようなモデルケースになると思います。
冬の富士山の魅力で、閑散期にも人流が生まれると地域も嬉しいですね
富士山のさらに低部、麓の富士吉田市にも魅力が詰まっています。移住者の目線になりますが、例えば139号線沿いに林立する大型スーパーはなかなか壮観で、観光客の人にとっても大きなインパクトがあると思います。僕の地元の神奈川県では、それほど大きなスーパーがなく、地元の商店か薬局のようなところで日常的な買い物を済ませることが多かったので、実は地域のみなさんの日常生活そのものが、外から見る人の発見や気づきになったりします。旅はよく非日常の体験と言いますが、ほかの地域の人の日常である”異日常の体験”という楽しみ方も提供していけたらと思っています。
そして、その魅力を発信する人たちは、必ずしもプロのガイドでなくてもいいのかなと思っています。富士山・北麓地域を全てカバーできるわけではないけど「この場所だったら大丈夫ですよ」というレベルであれば、例えば「子育てに忙しくてフルタイムでは働けないけど、少しの時間を作って手伝うことならできそう」という人材の雇用創出にもつながります。様々なバックボーンの人が地域の魅力を、様々な視点から伝えることができれば、地域全体として対応できる客層の幅も広がると思っていて、これも社会的な意義が大きいと思います。
さらに、その人たちが地域の魅力の発信者として成長し、それこそプロのガイドさんと呼べるレベルになれば、すでに忙しく活躍している地域のガイドさんを、繁忙期にはサブ的にフォローしたり、それぞれの得意を活かしたこれまでなかったアクティビティやガイドツアーの提供が可能になると思うんです。この方法は、富士山という世界的にも恵まれたハードのポテンシャルを活かしていけるひとつのアイディアになると思います。
▼富士吉田がもし、まるごとサテライトオフィスになったら…こんなことが起こる!と期待していること
浅間神社でお客様をガイドする千代さん
富士吉田市がまるごとサテライトオフィスになったらどんなことが起こると思いますか?
富士吉田市がまるごとサテライトオフィス化することによって地域が経済的な恩恵がすぐに得られる、ということはあまりないのかなと思います。第二、第三のオフィスを持つということは、つまり本拠地は別のところにあるということなので、法人税のような大きな税収を地域が得るところには直接的にはつながっていかないような気がしています。
それでも、普段多く見かける短期滞在の観光客とは、別の属性を持った客層の登場という意味で、まるサテの今後が気になっています。というのもワーケーションで訪れる人というのは、一般的な観光客よりも中長期で滞在する可能性が高く、生産性といったキーワードをもつ層が多いと思うからです。そのような人たちは、短期滞在では経験できないようなアクティビティ、特に何か技能を習得するような体験型のアクティビティに興味を示すような気がしています。
例えば数日間にわたる伝統工芸の教室といったアクティビティがあるとして、一般の観光客の人はそれに参加することはできませんが、ワーケーションであればそういったことに挑戦できる。新たなニーズがあればそれを商機に、今までの観光にはなかったようなソフトの多様化が進のではないかと期待しています。
千代慧さんからのメッセージ
富士山・山麓の地域が活性化していく中で、観光の可能性を最大化することと、自然環境や文化遺産への影響を最小化することが次の時代への持続性を確保していくと考えています。
観光の成長は多くのお客様の多様なニーズを満たすことと、地域の強みや自分のカラーを活かした独自性を目指すことから生まれます。
そこでthousandthはお客様とのコミュニケーションを大切にして、お客様に安心感を持ってもらうことで快適で心地よい時間を提供していきたいと思っています。そして地域独自の自然・文化を楽しむアクティビティを企画することで、他では味わえない時間を演出していくことを目標にしています。
同時に、自然環境や地域社会へのダメージを最小化することが大事なので、エコツーリズムの考えをベースに自然・文化資源の保全を進め、旅行者から選ばれる観光地となることを目指していく必要があります。
観光振興と自然文化保全という2つの相反しそうなコンセプトではありますが、“共生が表現される”富士山から学び、調和していく道を探していくことがチャレンジであり、イノベーションだと考えています。
それがthousandthの考える地域創生です。
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『湖畔テラス Outdoor Wine Session』
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◯「富士吉田市まるごとサテライトオフィス」とは
「富士吉田市まるごとサテライトオフィス(略:まるサテ)」は山梨県富士吉田市全体を使って、様々な事業者が富士吉田市内に自分のサテライトオフィス(企業または団体の本拠地点から離れた場所に設置されたオフィス)を手軽に持つことができる取り組みです。
(詳細:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000093585.html)
◯富士吉田市まるごとサテライトオフィスでは取材に応じてくださる方を募集しております。
「地域活性や街づくりに興味がある!」
「今こんな活動をして街を盛り上げている」
「頑張っている人がいるので記事で紹介してほしい」
「面白い構想があるのでこんな方と繋がりたい」などなど。
ひとつでも当てはまったら是非ドットワークPlusにいらしてください!
記事執筆/宮下 高明