使う人の装いや空間にアクセントとユーモアを!テキスタイルデザイナーの『吉本悠美さん』

エッチングという技法で描かれた、独特なテクスチャとビビットながら絶妙なバランスがとれた色遣い。柔らかな布の印象を自由自在に操るテキスタイルデザイナー”YUMI YOSHIMOTO”の作品は、空間の印象を大きく変える力を持っています。今回は、東京造形大学で教鞭を取りながら、自身もアーティストとしてテキスタイルワークを制作する”YUMI YOSHIMOTO”こと吉本悠美さんをインタビュー。ご自身のご経歴やご活動、ワーケーションが進んだ富士吉田市の未来像などを聞きました!

 

YUMI YOSHIMOTO

https://www.yumiyoshimoto-textile.com/

 

▼吉本悠美さんのご経歴やご活動について

今回のインタビューに答えてくださったテキスタイルデザイナーの吉本悠美(よしもと ゆみ)さん
本日はよろしくお願いします!

こちらこそよろしくおねがいします。

まずは吉本さんのご経歴を教えていただけますか

私は東京の練馬出身ですが、小学校から高校までは埼玉にいました。大学は東京造形大学だったので、そこでもう一度東京に戻ったという感じです。専攻はテキスタイルデザインで、選んだ理由は予備校の先生に勧められたのと服が好きだったからです。大学生活は勉強以外も充実していましたが、四年生の時の卒業制作では、作品が思うように作れない悔しさと、同時に作品作りの面白さを強く感じました。そこで「もう少し作品作りをしたい」という気持ちが強くなり、修士過程に進むことを決めたんです。大学院では修士の一人一人に制作スペースが与えられて、研究という名の作品作りに没頭することができました。そこで頑張れたのは、教えてくださった教授の先生方も著名なテキスタイルデザイナーで、先生方の作品自体に感銘を受けたこともあるのですが、世界中で仕事をされる姿に憧れが強かったからだと思います。

その修士課程で、デザインの仕事をいただく機会があり、就職というよりはフリーでやっていくイメージが出来たので、就職活動はしませんでした。そして修士を卒業するタイミングで、たまたま助手の席が空き、そこからフリーランスの仕事と助手の仕事を掛け持ちする生活が始まりました。助手の仕事では、それまで全くやってこなかった仕事のやりとりや請求書の発行など、作品作り以外の仕事に必要なスキルも学び、3年の任期を終える頃にはフリーランスとして一通りのことができるようになりました。そして、助手の任期が終わった時に、ちょうど席が空いた講師に転向し、今では東京造形大学で教鞭を取って4年目になります。

YUMI YOSHIMOTOプロデュースのブランド『KESHIKI(ケシキ)』
今はどちらにお住まいですか?

今は西桂町に旦那さんと息子の3人で住んでいます。移住のきっかけは、今年で13年目になる東京造形大学と西桂町・富士吉田市が連携して進めてきた『富士山テキスタイルプロジェクト』でした。私は学生の頃からお手伝いしてきたプロジェクトなのですが、ちょうど助手の任期が終わるタイミングで、西桂町が初めての地域おこし協力隊を募集していました。当時、西桂町の町長さんが大学まで足を運んでくださり、その時に白羽の矢が立ったのが今は旦那さんで当時付き合っていた彼氏です。その時は彼もちょうど助手の任期が終わるタイミングで、彼の田舎暮らしに対する憧れも重なって、移住を決意しました。

一方で私は、それまで東京や埼玉で暮らしてきて、いつか渋谷のような都会で事務所を持ちたいと希望もあったので、西桂町ののどかさに、正直初めは戸惑いました。でも、住んでみるととても過ごしやすく、旦那さんの地域おこし協力隊の任期が終わった今も、この町で暮らしています。今では旦那さんは町の人とクラフトビールを作るプロジェクトに参加していますが、東京造形大学で講師も勤めているので、毎日ではありませんが、夫婦ともに八王子まで、講師として勤務しています。

▼吉本さんの今の活動について

『KESHIKI(ケシキ)』は自然の風景や日常の景色を、線の重なりで表現している

これまでもいろいろなブランドやメーカーさんとコラボをしていますが、最近では、大手手芸小売店向けにプリントテキスタイルのデザインをしたり、バッグやバスケットのデザインを企業などに提案して、商品づくりに関わったりしています。そのほかにも西桂町や富士吉田市の地域の企業に柄やパッケージのデザインを提案するといったこともしています。仕事の大体の流れは、まずご依頼いただいて、打ち合わせから始まります。そこから抽出したものをデザインして提案します。時には実際に作ってくれる工場に繋いで、その仕上がりのチェックまで行います。デザインすればそれで終わりというわけではなく、ヒアリングから製品の完成までお付き合いするので、感覚としては伴走に近いかもしれませんね。

吉本さんはどのようにまるサテに関わっていらっしゃいますか?

まるサテの中心であるドットワークPlusを飾る、縦2.4m幅17mのテキスタイルのデザインを担当させていただきました。これまで手がけたことのない大きさで、その分空間に配置された時の存在感も大きいので、デザインで感じるプレッシャーもそれ相応でした。事前のヒアリングでも「見せ場になるところなので」と言っていただけて、名誉のあるお仕事なんだと感じながらの制作になりました。見てくれる人には、その迫力をもちろん感じてほしいですが、デザインを見てくれる人が大きなテキスタイルの中でも飽きにくいような工夫もしています。例えば町の部分は模様になっているんですが、よく見ると形が全部違うという、絵のような仕掛けも取り入れています。また、富士吉田市の持っているエネルギーを表現したかったので、あえて手書きのラフさで、そのエネルギーを表現したりもしています。ドットワークPlusに立ち寄った際にはテキスタイルの魅力とともに、作品の細かなところまで、ぜひ皆さんに見てもらえると嬉しいです。

ドットワークPlusのテキスタイルは、富士吉田市のエネルギーを表現するため手書きでデザインした

▼富士吉田がもし、まるごとサテライトオフィスになったら…こんなことが起こる!と期待していること

インタビューに答えてくれるYUMI YOSHIMOTOこと吉本悠美さん
富士吉田がまるごとサテライトオフィスになったらどんなことが起こると思いますか?

長年に渡って、いろいろな人たちが努力してきた中で、富士吉田市は繊維産業の界隈で、これまでにも増して広く知られる存在になってきています。正直なところ、繊維産業自体は、かなり厳しい状況が続いており、海外産の安い化繊に押されていたり、SDG’sの関係で生産しすぎないように生産量を絞られていたりしています。そんな業界全体の流れの中でも、積極的に活動している富士吉田市は、繊維業界から注目を集めているのではないかと思います。

一方で、違う業種の人たちにはどのくらい知られているのか、それは正直なところ分かりません。逆に言えば、そこが狙い目だとも思っていて、それこそ繊維産業に全く関わり合いのない、「布好き」「洋服好き」でない人たちだからこそ、テキスタイルの新たな活用方法を見つけてくれるような未来もあるんじゃないかと思っています。そのほうが今まででてこなかったような面白い広がりもありえるんじゃないかと思いますね。

吉本さんご自身も他の業種と関わって新たな広がりを感じたエピソードはありますか?

まさにドットワークPlusの話がそうなんです。カーテンや背景になるようなデザインはこれまでにもやってきましたが、テキスタイルそのものが作品として完結するのは初めての試みでした。一方で、その印象が空間の雰囲気を大きく左右することにもなる、個としての魅力と全体としての調和を両立させるようなデザインにもなっています。これは、建築業の方たちと協働したからこそ生まれた視点だったと思っていて、彼らの空間に対する考え方や布に対するイメージのおかげで、作品に幅が生まれたと思います。例えば、テキスタイルの業界だけだと、その折り方や色の配置など、どうしても作品の細部に至までを追求していくというスタンスになりがちですが、今回は空間での映え方や空間全体との調和性などを重要視したものづくりになりました。

作品中には富士吉田市を表現する上で欠かせない富士山も描かれていますが「全体的なバランスから富士山がこっちに来た方が良い」「ライティングの関係で、配置を変えた方が見栄えが良くなる」といった具合に、全体からの逆算でものづくりをしていくプロセスと感覚が新鮮でした。この話のように、まるサテが進み、いろいろな業種の人が繊維産業と交わることで、繊維産業だけではなかなか見えて来なかった新しい潮流が生まれてくるのではないかと、期待しています。

完成したドットワークPlusのテキスタイルデザイン画は長さ数メートルに及ぶ

吉本悠美さんからのメッセージ

私はあまり移住願望もなくて、いざ移住すると決まった時には、正直なところ「ハードルが高いなぁ」と思いました。仕事は東京にいた方が取りやすいだろうし、知り合いも富士吉田市には多くいるけど、西桂町には工場の人くらいで、大学の先輩・後輩にも先駆者がいなかったので。ただ、住んでみると、のどかで仕事に集中できたり、子供を育てる環境としてもいいと思います。東京から1時間という立地も便利ですし、繊維業の方が多くて、自分が作りたいと思うテキスタイルをすぐに形にできる環境なのも嬉しいです。住んでみると楽しくて、メリットもたくさんあると気づけたので、移住に迷っている人にはぜひ挑戦してほしいと思います。

富士吉田市の織物会社とコラボしたブランケット

YUMI YOSHIMOTO

https://www.yumiyoshimoto-textile.com/

◯「富士吉田市まるごとサテライトオフィス」とは

「富士吉田市まるごとサテライトオフィス(略:まるサテ)」は山梨県富士吉田市全体を使って、様々な事業者が富士吉田市内に自分のサテライトオフィス(企業または団体の本拠地点から離れた場所に設置されたオフィス)を手軽に持つことができる取り組みです。

(詳細:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000093585.html

◯「まるサテ」では取材に応じてくださる方を募集しております。

「地域活性や街づくりに興味がある!」

「今こんな活動をして街を盛り上げている」

「頑張っている人がいるので記事で紹介してほしい」

「面白い構想があるのでこんな方と繋がりたい」などなど。

ひとつでも当てはまったら是非ドットワークPlusにいらしてください!

記事執筆/宮下 高明