学生、移住者、都市デザイン研究。いくつもの視点から
まちづくりに取り組む地域おこし協力隊・伊藤純也さん

富士吉田を舞台に、研究、フィールドワークなどを行なっている大学や大学院があります。その度に県内外から多くの学生が訪れますが、東京大学大学院の都市デザイン研究室に所属する伊藤純也さんもその一人です。昨年一年間、都市デザイン研究のために富士吉田を度々訪れていた伊藤さんは「この場に根ざしているからこそできることがある」と今年の春、地元・東京から富士吉田市へと拠点を移されました。それと同時に地域おこし協力隊としての活動もスタート。ご自身を“大学生の窓口”と表現される伊藤さんは、富士吉田を訪れる学生のコミュニティスペースとして自宅の一部を解放したり、地域と学生を結ぶことに注力されています。縁の下で若者たちを支えるリーダーに富士吉田の特色や未来について伺いました。

富士吉田にいるからできること

インタビューに応じてくださった東京大学大学院生/地域おこし協力隊の伊藤純也さん

本日はよろしくお願いします!

こちらこそよろしくお願いします。

 

富士吉田へ移住されたきっかけを教えてください

現在、東京大学大学院の2年生で、都市デザインについて学んでいます。所属する都市デザイン研究室にはいくつかのプロジェクトがあり、僕は富士吉田プロジェクトに参加しています。東京生まれ東京育ちで、これまで富士吉田という地名も知らなかったのですが、昨年から度々訪れるようになり、面白い街だなって惹かれていきました。この街で研究するようになって行ったり来たりしていたのですが、それだと活動の幅にも限界があるなと感じるようになり…。実際に地域に根ざして生活することで叶うこともあると思ったし、この街に居心地の良さを感じていたので、今年4月に引っ越してきました。地元以外の街で暮らすのは初めてのことでしたし、一人暮らしもしたことがなかったのですが、昨年からのネットワークがあったため全く抵抗はなかったです。

 

地域おこし協力隊としても活動されていると伺いました

はい、引っ越してきたタイミングで富士吉田市の地域おこし協力隊に入りました。今、地域課題のひとつに若年層が少ないということがあります。この街に総合大学がないというのも理由のひとつと言えますが、特に20歳前後の若者が少ないんですよね。高校を卒業したあと、首都圏に出ていってしまう人が多いです。なので、若年層の関係人口を増やしてこの街に若者の力を還元すること、そして若い世代の富士吉田ファンを作ることをコンセプトに活動しています。

僕の場合は地域コミュニティ活動をミッションとして、市と連携協定を結んでいる大学がいくつかあるので、研究プロジェクトでこちらに来る学生と地域を繋ぐ橋渡しのようなことをメインに活動しています。一言でいうと大学生の窓口のような役割です。今住んでいるところが、学生拠点と自宅を兼ねていて、元々お好み焼き屋だったスペースと母屋、工場の3つがセットになったユニークな物件で、持ち主の方とご縁があって貸していただけることになりました。その一角を学生達の拠点にしています。『学生拠点コロコロ』という名前は、もともとあったお好み焼き屋の名前が可愛かったのでそのままいただきました。東京大学から学生が来ていて、ものづくりをするなどの活動に取り組んでいました。

ものづくりをするのに最適な広さの元工場スペース

コロコロを開放するにあたって学生のみんなとディスカッションもしました。どういう風に使っていきたいかということを話し合うために、県内外の大学生が20名ほど集まってくれました。他にも富士吉田の好きな点やここで活動する意味、普段感じていることなどをシェアしたり。なかなか関わることのない他校の学生同士が交われる良い機会となりました。そんな感じで基本は縁の下の役割です。

地域おこし協力隊としての活動、大学院のプロジェクト、このふたつを同時進行させながらの生活です。プロジェクトの方は、ある社会実験をするためにここで準備をしていました。メンバーの中で現地にいながら動けるのは僕だけなので、街の歴史を住民にインタビューしたり調査をしたり、人と人を繋いだり。ここに住んでいるからこその活動ができています。

 

都市デザイン研究室はどのような経緯で入られたのですか?

元々、都市社会学という街や都市に関する領域の勉強をしていたのですが、どちらかというと理論がベースで、文献を読んだり分析をするような学び方でした。それも楽しかったのですが、僕はもっと街に入り込んでフィールドワークを行いたいと思うようになり、現在の工学系研究科の都市計画を専攻しました。建築から離れてもう少し広いスケールで街を見たときにどういう空間が望ましいかを研究するのがテーマです。例えば「さらに歩きやすい街にするには?」「住みやすい街にするには?」などを考えて検証したりします。課題点だけでなく、元々その街にある資源をどう活かすかなども含めて多面的に考える必要があるので、実際に聞き取りを行ったり住民説明会を開いて意見交換を行うこともあります。実験的に2、3日だけ街に手を加えて変化を検証することも。それが良ければ長期的に行う可能性はあると思います。そのときに大事なのは外部の視点。僕のような外からの視点を持ち込むことは、地元の人にこの街を改めて見つめてもらう上で必要になってきます。

伝統産業である機織りの廃材(布が巻かれていた芯)から誕生した『紙管ベンチ』

研究室にはいくつかのプロジェクトがあるのですが、生まれ育った環境とは違う環境で活動してみたかったこともあり、富士吉田のプロジェクトを選びました。地方で活動することによって、都市に対する見方など自分の幅を広げられたら良いなという思いがありました。地元に帰りたい気持ちはまだ湧いてこないですね。ここでの生活が気に入っているので。

 

コンパクトな街だからこそ関係性を大切に

 

富士吉田での活動で感じることはありますか?

地方では都市部に比べて人と人との関係性が強いし、信頼関係によって物事が動くことはすごく多いと実感しています。それは富士吉田に限ったことではないと思うのですが。新しい情報を教えてもらうときなどに、ネットワークやコミュニティを使うという点が、東京にいた時よりも大事な部分になっています。知り合いの知り合いを紹介してもらうということも多いです。人口も多過ぎずコンパクトな街なので、いろんな場面で繋がりが広がるのはこの街の面白さだと思っています。逆にコミュニティがクローズドでもある分、物事がスムーズに動いていくためにも、良い関係性を築くことが必要なことかもしれません。

 

良好な関係性の中で起こったエピソードがあれば教えてください

少し前に『流鏑馬祭り(やぶさめまつり)』という下吉田のお祭りに参加し、馬に乗せていただきました。それはすごく貴重な経験になりましたね。昔から受け継がれてきた歴史あるお祭りに呼んでもらえたのは、地域の人との繋がりや良い関係性があったからだと思います。そこに参加することでまた新しい繋がりもでき、好循環の流れが生まれています。

地方では移住者に対して“外から来た人”という意識が強くあると思うし、僕もそんなイメージを持っていました。だけど初めて来たときからよそ者の僕をすごく温かく受け入れてくれて。それにはびっくりしたと同時に嬉しかったです。誰でも受け入れてくれるような懐の深さを感じてすごく居心地が良かったし、それが“ここに住みたい”に繋がりましたね。

平安時代から続く流鏑馬祭りは馬の蹄の跡で地域の吉凶を占うことが目的(提供写真)

伊藤さんが思う富士吉田のアピールポイントは?

富士山や自然などアピールポイントはいろいろありますが、僕としてはやっぱり“人”がいいなって。外部から来た人に対してものすごく寛容だし温かい。その昔、富士講という富士山信仰の人々が、江戸など他の地域から富士吉田に訪れていたということも背景にあるのでは、と思います。機織り産業も盛んだったので買い付けで出入りする人も多くいたと聞きました。そういう歴史的な要素が、今の人々の寛容さに繋がっているのかもしれません。それから、東京にいた頃はご近所付き合いをあまりしたことがなかったのですが、ここでは近隣の方から頂き物をするなどの交流があり、僕にとっては新鮮に感じますし、そういう交流が居心地の良さに繋がっています。

 

今後の目標があれば教えてください

まだ企画段階ではあるのですが、若い人が集まって富士吉田の街について話し合う“若者会議”をやりたいと思っています。プロジェクトで富士吉田に来ている学生だけでなく、地元で働いている若者や、富士吉田出身だけど今は首都圏に出ている人など、さまざまな属性の若い人たちを結びつけるようなイベントを考えています。“総合大学のない街を学生街にする”というのは、やってみたいことの一つです。「自分たちで楽しみながら街を作り上げていけたら面白いだろうな」と、漠然と考えています。

コロコロに集まった他大学の学生に“管理人”として自己紹介をする伊藤さん(提供写真)

あとは、市役所と大学が連携を図るという部分でも関わっていきたいと思っていて。研究や授業の一環で大学生が訪れるというのを10年ほど続けてきているけれど、街としてそこからさらに発展させる段階に来ていると感じています。フィールドワークの授業やプロジェクトで富士吉田に来ても、それが終わるとせっかく生まれた関係性も途絶えてしまいます。そうではなく、学生自らこの街が好きでここに来るような、個人としての結びつきや関係性の度合いを深めていけると、街にとっても学生にとっても良いですよね。地元の学生も巻き込むなど、より多様な形で学生と地域が結びつくような在り方を、若者会議で考えていきたいです。

 

ドットワークプロジェクトに期待すること

 

ドットワークプロジェクトは、仕事をしながら地域のことを知れる良い取り組みだなと思っていて、僕自身もドットワークPlusには度々足を運んでいます。ただ観光に来てもらうだけではなく、まるサテを活用することでちょっとでも地域に入り込むきっかけになったら良いですよね。もっとこの街のことを知りたいとか、そういう小さなきっかけが移住に繋がったりすることもあると思います。実際僕もそうだったので。富士吉田は、人と人の繋がりや温かさが魅力のひとつなので、そこが伝わるような仕掛けにこれからも期待しています。

僕はやっぱり住みやすさに魅力があると感じていて。少しでも地域の人と関わってみるとか、長めに滞在してみるとか。そうすると街の良さが伝わるような気がしています。まるサテを利用してもらいながら、ぜひここでの暮らしを味わってみてほしいですね。

 

伊藤純也さんからのメッセージ

 

富士吉田に訪れる人は、良い街だなって気に入って帰る人がすごく多いんです。なので、気軽に来てみてほしいですし、少しでも滞在して地域の人と交流してほしいです。地元の人と繋がる取り組みもたくさんあります。まるサテもそうですし、『ふじよしだ定住促進センター』では移住相談会やご飯会など交流の場を設けていて、僕も時々顔を出させてもらっています。ぜひ多くの方に遊びに来てほしいです。

伊藤純也さん(Facebook)
https://www.facebook.com/profile.php?id=100034112017081

 

「富士吉田市まるごとサテライトオフィス」とは

「富士吉田市まるごとサテライトオフィス(略:まるサテ)」は山梨県富士吉田市全体を使って、様々な事業者が富士吉田市内に自分のサテライトオフィス(企業または団体の本拠地点から離れた場所に設置されたオフィス)を手軽に持つことができる取り組みです。

(詳細:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000093585.html

富士吉田市まるごとサテライトオフィスでは取材に応じてくださる方を募集しております。

「地域活性や街づくりに興味がある!」
「今こんな活動をして街を盛り上げている」
「頑張っている人がいるので記事で紹介してほしい」
「面白い構想があるのでこんな方と繋がりたい」などなど。

ひとつでも当てはまったら是非ドットワークPlusにいらしてください!

写真・記事執筆/高井まつり(KINONE)