クライミングで感じるダイナミックな自然!
富士吉田を拠点に世界を冒険する中村勇貴さん

大学生の頃からバックパッカーや自転車での北米大陸縦断など、世界の旅を続けてきた中村勇貴さん。自分自身の直感に従って様々なことにチャレンジする中村さんは、登山ガイドであり、英語教師であり、クライマー。多彩な印象を受けるが、「消去法で残った自分にできることをやっている」のだとか。富士吉田に移住するまでの紆余曲折や移住後の生活など、この春仲間と立ち上げたクライミングジムでお話しを伺いました。

簡単ではないことを求めて世界を旅した20

インタビューに応じてくださった中村勇貴さん

本日はよろしくお願いします!

こちらこそよろしくお願いします。

現在の活動について教えてください

今は富士吉田を拠点に、登山ガイドと英語講師、その合間にクライミングをする生活を送っています。出身は滋賀県で、大学卒業後は大阪の商社に入社しました。ですが、会社員としての生活に耐えられなくなり10ヶ月後には辞めてしまいましたね。そのあとは舞台照明の仕事に就いて数年間働いたのですが、夜通し働くことも多く生活も不規則だったので、長く続けることは難しい仕事だと感じました。大学時代、バックパッカーにハマって海外を歩いたり、自転車で北米大陸縦断をしていたことがありました。その経験から登山が好きになり、山が身近にある生活がしたいと移住を考えるようになりました。

北アルプス登山が好きだったということもあり、まずは長野県へ移住してゲストハウスで働くことになったのですが、ちょうどコロナ禍のタイミングと重なって仕事がなくなってしまったんです。次の仕事を探していた時に見つけたのが、住み込みで働ける山梨県のホテルでした。結局そこのホテルもコロナの影響を受けて働けなくなってしまったのですが、山が身近にあるこの場所が気に入ったこともあり、そのまま定住することを決めました。ホテルを辞めたあとに見つけた英会話教室の仕事は今も継続していて、小学生に英語を教えています。1年前から登山ガイドの仕事もスタートし『Fuji Outdoor Base』という屋号で活動しています。昨シーズンは富士山だけでも31回登りました。4年前からハマっているクライミングは、ジムで練習することもありますが、自然の岩や凍った滝に登るのが非日常を味わえて好きですね。

ペルーアンデスのサンタクルス谷にて(提供写真)

海外を旅するようになったきっかけは?

飽き性なこともあって、大学生活に物足りなさを感じていたんです。何か打ち込めるものを探し求めているうちにバックパッカーに出会って、そこからのめり込み、インドや東南アジアへ行きました。バックパッカーも楽しかったのですが、移動を公共交通機関に頼るとなんでも簡単にできてしまってもう少し冒険してみたいと思うようになりました。それで一旦休学をして、バイトでお金を貯めたあと北米大陸縦断にチャレンジしました。移動中の景色を味わうために、移動手段は自転車に決めて、アラスカからロサンゼルスまで5ヶ月ほどかけて移動しました。今思うと、それが初めてのアウトドア経験でしたね。

海外で初めてのアウトドアは簡単ではなさそうですね

初めてで何も知識がないまま飛び込んだので、ハプニングは色々とありました。一番安い寝袋を買って持っていったのですが、アラスカの朝は夏でも5度くらい。耐え難い寒さでしたね。寝袋に冬用、夏用があるということを後に知りました。仕方なく現地で全て買い直したという苦い思い出がありますね。あとは、野生のクマにばったり会ったときにはかなり焦りました。夕方に差し掛かっていたのでテントを立てられそうな場所を探していて。そこで寝ていたら本当に危なかったです。幸い白夜だったので、いつまでも自転車を漕ぎ続けることができて、寝ずに次の街を目指しました。

悪いこともあれば良いこともありました。旅の中盤、テントで寝ている間に自転車を盗まれてしまったことがあり、ヒッチハイクで街まで戻って、地元の人の家に泊めてもらうことができました。ちょうど前日に知り合った方だったんです。泊めてもらった上に自転車を買いに行くためのバス代まで出してくれました。自転車で旅をする人は珍しかったようで、話しかけてくれたり、ご飯をご馳走してくれる人もいて助けられましたね。ハイカーやクライマーと話す機会も多く、その時の出会いが山への興味に繋がったのだと思います。今、英語講師をしていますが、英語が話せるようになったのも間違いなくこの旅のおかげですね。

テントや食料など30キロほどの荷物を積んで移動していたという中村さん(提供写真)

クライミングの魅力と登山ガイドの仕事とは

新オープンのクライミングジムについて教えてください

数人のクライミング仲間と一緒に立ち上げることになり、この春オープンとなりました。以前、富士吉田エリアに唯一あったクライミングジムが、残念ながらなくなってしまって。甲府まで足を延ばさないとクライミングジムがない状況で、この地域のクライマーにとっては困ったことでした。今回、出資してくださる方からありがたいお話をいただき、何人かのメンバーと共に新たにクライミングジムを設立することになりました。ボルダリングは体への負荷も大きいし、楽しいと思えるようになるまで時間がかかるスポーツなんです。それもあって、興味を持って始めてもすぐに辞めてしまう人が多い。だから、しばらくは会員登録やジム利用、シューズレンタルなど全て無料で開放しています。とにかく、未経験の方にもたくさん来てもらい、体験してほしいなという思いです。あと、ちょっと珍しいのはロープが設置されている点ですね。普通のボルダリングではロープを使わないのですが、僕も含め、色々なアクティビティをするメンバーが揃っているので、ボルダリング以外の外遊びの魅力も知ってもらいたく、設置しました。

「初心者でも挑戦しやすいルートもあります」と中村さん

中村さんが思うクライミングの魅力とは?

日常生活で全力を出し切るってなかなかないですよね。遊びとしてのクライミングとはいえ、崖や氷の滝を登るのはやはり危険なことなので、持っている力を全て振り絞って登るんです。「ここでスリップしたらどうなっちゃうんだろう」っていう日常では味わえないスリルがあります。自然の中で風を感じながら自分の全てを出し切るのは気持ちがいいですし、最高のリフレッシュになっています。他にそんなスポーツはないし、スポーツの域を超えているのかもしれません。

ダイナミックな自然の中から帰ってきてまず感じるのが、水道の蛇口から暖かいお湯が出てくることのありがたさ。安心して寝られる場所があることにも幸せを感じます。非日常を楽しめて、改めて日常に感謝できる、それもクライミングの魅力ではないでしょうか。手順を考えながら登るので意外と頭の運動にもなります。全身運動になるので健康維持にも良いですよね。ボルダリングに関しては、どんな服装でもいいし、ジムにチョーク(手の湿気を抑え滑りにくくするもの)と専用の靴も用意があるので、本当に手軽に始めてみてほしいスポーツです。

マルチピッチというロープを使ったクライミングを行うことも(提供写真)

登山ガイドの仕事についても教えてください

登山ガイドは一年ほど前に資格を取り、フリーランスで活動しています。主に初心者の方のガイドをしていて、富士山にもよく登りますよ。富士山は難易度としては高くないのですが、日本一を誇る標高ですので、天気によっては危険もあります。天気予報を確認して、風が強い時は登らない判断をするのもガイドの役目。きちんと安全管理をすることが一番の仕事です。富士登山の場合は、皆さんご来光を目当てに登られるので、暗いうちに出発して2日に渡って登山をします。合わせて1213時間ほどかかりますね。ガイドを依頼するのは、スケジューリングや装備がわからない登山初心者や、体力に不安のあるご年配の方が多いです。特に、体力に自信がなく少人数で登りたいという方は、ツアーではなく僕のようなフリーランスを頼ってくださいます。

登山ガイド以外にも、今はゲストハウスを作りたいという夢があって、良い場所がないか探しているところです。ゲストハウスを経営しながら、登山のオフシーズンを利用して海外を旅して周る。そんな生活ができたらいいなと思っています。

ご来光をバックにゲストの皆さんと記念撮影(提供写真)

移住して感じた富士吉田の特徴

富士吉田に移住されて心がけていることはありますか?

なんとなく、どこの地域にもそこに暮らす人や地域の特性はあると思うのですが、できるだけ地域に合わせるようにしています。富士吉田に来て狩猟を始めたいと思い、猟友会に入りました。そこで地元の方と関わるようになり、昔ながらのしきたりが色濃く残っていることは感じます。それによそ者の僕がコミュニティに入るには時間がかかりました。でも根気強く参加していたら顔と名前を覚えてもらえて、今ではすごく良くしてもらっていますし、面倒を見ていただいています。顔を出し続けることは大事だなと思いました。

狩猟をしたいと思われたのはどうしてですか?

なんとなく大学生の頃から興味がありました。スーパーで調理しやすい状態になった肉が並んでいるのってすごいことだと昔から思っていたんです。お金を払えば簡単に買えて、調理も簡単。そんな風に当たり前になっていることにずっと引っ掛かりがありました。その違和感から、オーストラリアの精肉工場で働いたことがあります。ワーキングホリデーを使って1年間滞在しました。その精肉工場では、1日に300頭くらい牛を殺して精肉にしていましたね。精肉は動物の命ということを、身をもって感じることができました。狩猟も同じで、自分の手で殺すことでしっかりと命の重みを感じることができる。やるのとやらないのでは、全く違います。残さずに頂きたいという気持ちが強くなりました。

地元・猟友会の皆さんと狩猟に出かけたときの様子(提供写真)

富士吉田のアピールポイントを教えてください

やはり富士山ではないでしょうか。移住するまでは縁もゆかりもない場所だったのですが、初めて富士吉田から見た富士山の迫力には圧倒されました。富士山がどこからでも見えて日常に存在しているというのは、富士吉田の大きな特徴だと思います。自宅の窓や、いつも行くスーパーの駐車場など、ふとした瞬間に目に飛び込んできて、その度に綺麗だなって感じています。富士山は登るのも良いですが、僕は眺めるのが好きですね。

ドットワークプロジェクトはご存知ですか?

仕事柄、コワーキングスペースを必要とする場面がないのですが、打ち合わせの際に相手の方に呼んでいただいてドットワークPlusを利用させてもらったことはあります。移住者同士で繋がれたり、異業種の交流が生まれる場でもあるというのは良いですね。僕はクライミングと狩猟のコミュニティに自ら入りましたが、そういった明確な目的がなくても、とりあえずドットワークPlusに行けば誰かがいて話ができる。そこから面白いことが生まれていくのかもしれませんね。

中村勇貴さんからのメッセージ

富士吉田への移住に興味がある方は「なんとかなる」と思ってとりあえず住んでみてはいかがでしょうか。なんとかならなかった時はやめることもできる。移住して前向きに何かに取り組んでいるうちにきっと楽しいことが生まれると思います。ボルダリングも同じで、最初はうまくできないし、すぐに腕が疲れてしまって、楽しいと思えるまでには少し時間が必要です。クライミングジムはしばらく無料で開放しているので、気軽に遊びにきてください。子ども用エリアもあるので親子で始めるのも楽しいかもしれません。

Fuji Outdoor Base
https://fujioutdoorbase.com


「富士吉田市まるごとサテライトオフィス」とは

「富士吉田市まるごとサテライトオフィス(略:まるサテ)」は山梨県富士吉田市全体を使って、様々な事業者が富士吉田市内に自分のサテライトオフィス(企業または団体の本拠地点から離れた場所に設置されたオフィス)を手軽に持つことができる取り組みです。

(詳細:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000093585.html

富士吉田市まるごとサテライトオフィスでは取材に応じてくださる方を募集しております。

「地域活性や街づくりに興味がある!」
「今こんな活動をして街を盛り上げている」
「頑張っている人がいるので記事で紹介してほしい」
「面白い構想があるのでこんな方と繋がりたい」などなど。

ひとつでも当てはまったら是非ドットワークPlusにいらしてください!

写真·記事執筆/高井まつり(KINONE