「ファッションを通して作り手の想いを届けたい」
2つのブランドを経営するデザイナー・金山靖子さん
空きスペースなどを借りて期間限定で出店する“ポップアップストア”を中心に、一点ものの洋服や小物などを販売する2つのブランドを経営されている金山靖子さん。現在は、ドットワークPlus・ドットワークPlus Labがある富士山駅直結の複合商業施設「Q-STA」2階にアトリエを構え製作されています。2つのブランドの立ち上げ背景には、大好きだったファッションを通して知った社会問題がありました。様々な葛藤を抱えながらも信念を貫く金山さんに、ファッションのこと、富士吉田の魅力などを伺いました。
ファッションとの関わり方を模索した20代

インタビューに応じてくださった金山靖子さん
本日はよろしくお願いします!
こちらこそよろしくお願いします。
現在の活動について教えてください
2010年から始めた『toU』という洋服ブランドと、山梨に来てから始めた『amAra』というプロダクトブランドの二つを経営しています。6年ほど前、夫の転職を機に横浜から山梨へ引っ越してきました。自宅は富士河口湖町ですが、ご縁があり富士吉田のQ-STA(駅直結の複合商業施設)2階の古着屋さんの一角をお借りしてアトリエを構えています。
出身は石川県で、大学までずっと地元で過ごしていましたね。大学卒業後に上京して、アパレルのベンチャー企業に就職しました。最初から店長を任せていただけるなど、やりがいがあると思って入ったのですが、同時にファッション業界のネガティブな裏側も見えてきて。はじめから不良品のような洋服を中国から安く買い付けて、それを叩き売りするようなやり方をしていたので、それには疑問を抱くようになりました。元々洋服は大好きだったのですが、洋服を通して何がしたいかという部分は漠然としていたので、洋服の販売員を経験したことでファストファッションのような考え方は好きじゃないんだと気づくことができました。

古着屋『Us design』の一角を作業スペースに
お店が入っていた横浜の赤レンガ倉庫では、様々なイベントが定期的に開かれていたのですが、ある時フェアトレードのイベントが開催されていました。当時、フェアトレードのことは何も知らなかったので、お店の方のお話を聞いて、すごく感動したのを覚えています。それを機に「私が洋服を通してやりたいのはこういうことだ!」と思い、すぐに会社を辞めて、いろいろなフェアトレードのお店に通うようになりました。
※フェアトレードとは、生産者の労働に見合った価格で対等な取引が行われる貿易のこと
ブランド『toU』立ち上げの背景にあるもの
どのようにブランド立ち上げに至ったのでしょうか?
フェアトレードのお店に通っている中で、純粋にかわいいと思って買うよりも、フェアトレードという仕組みにお金を払う“ボランティア”の気持ちで買うことが多くなっていると気がつきました。もし、“純粋にかわいいと思って手に取ったものの背景がフェアトレードだった”という順番だったら、ブランドに関わる人々の生活が少しでも良いものになるはずなのに…と漠然と思いました。そういった仕組みをつくるにはどうしたらいいか悩んでいる時に、まさにそれを実現しているブランドがあるよ、と友達に教えてもらったんです。
そのブランドは、“バングラデシュから世界に通用するブランドをつくる”というような理念を掲げていて、創業者の考え方にもとても共感できました。かわいいと思ったものの背景がフェアトレードである、という私が思い描いていたことを実現されていて、それを知った時に「自分でも洋服ブランドを立ち上げよう」と決めました。
ブランド名の『toU』には“世界に一人のあなたへ”という意味を込めています。当時、ファストファッションがブレイクし始めていた時で、大量生産が当たり前の世の中でした。若かったこともあり、ちょうど自分の存在意義とか、自分には何ができるのだろう、と考えている時期だったんです。それもあって、一人ひとりが特別な存在であること、その人だけに届ける一着を作ろうと、ブランドコンセプトが決まりました。

国内外の伝統的な生地をメインに用いた特別感のある洋服(提供写真)
洋服作りはどこかで学ばれたのでしょうか?
大学では洋服とは無関係のことを学んでいたので、最初は完全に独学でした。まず家庭用ミシンを買ってみて、とにかく縫って縫って…。ベトナムはオーダーメイドが盛んな国ということを聞いていたので、思い立って一人でベトナムとタイにも行きましたね。昔からエスニックファッションが好きだったんです。そこでは自分で描いたデザイン画を持っていって、その場で生地を選んで洋服に仕立ててもらうという体験を初めてしました。買い付けた生地を使って自分でも作ったり。
実際に手を動かすうちに、独学で作り続けることへの限界にも気づきました。それでアルバイトをしながら半年間、洋服作りの学校に通い、職業用ミシンに買い替えて、パターン(洋服の型紙)についても学んで。学んでいくうちに苦手な作業もわかったので、すべてを自分でやるのではなく割り切って外注することも覚えましたね。作った洋服はご縁のあった石川県のセレクトショップに置かせていただけるようになり、そこから徐々に知り合いを通じて委託販売先が増えていきました。今でも石川県のセレクトショップさんにはお世話になっています。
半年間の通学が終わった頃、今度はベトナムの首都・ハノイを訪れました。生地屋さんや生地市場を教えてもらって初めて行ったのですが、日本にはない珍しい柄や豊富な種類に驚いて、生地好きの私にとってはまさに天国。そのままの勢いでハノイに住んで1年間製作を続けました。帰国後は家族の移住に合わせて拠点を大阪に移し、2年半ほど住んでまた一人で東京に戻るなど、今思えば様々な地域を転々としてきましたね。その間も洋服の製作は続けていて、販売先も徐々に広がっていきました。

ベトナム・ハノイの当時の様子(提供写真)
山梨移住で出会った富士吉田の機織り文化
富士吉田の生地でも服作りをされているそうですね
元々民族衣装が好きで、これまでは海外の伝統的な生地を使うことが多かったのですが、移住を機に富士吉田の機織り文化を知って、少しずつ取り入れるようになりました。月に一度開催されている『氷室どよう市』というイベントで、B-TANという製品にならなかった生地を購入させていただくことも多いです。ネクタイ生地の色見本がパッチワークのように並んでいるのを見つけて「こんなにかわいい生地は見たことない!しかもシルク100%!」と、見本なのに買わせていただいたことも(笑)。
富士吉田でオーガニックコットンの生地を作られている前田源商店さんでは、珍しいカモミール柄の生地に一目惚れして、たくさん購入させていただきました。今では完売していますが、非常に人気でしたね。

前田源商店さんの生地を用いたカーディガン
富士吉田の生地は、海外のものと比べると上質なものが多く、職人さんのこだわりを感じられますし、直接作り手からお話を聞くことができるという利点も。作っている方の信念や誇りなどもちゃんと背負って製作・販売ができるので、やっぱり私の熱量も変わりますね。
カンタ生地のブランド『amAra』で目指すもの
移住後に立ち上げたブランド『amAra(アマラ)』について教えてください
amAraは“カンタ”と呼ばれる生地を使ったバッグやポーチ、クッションカバーなどの小物をメインに扱うブランドとして、2020年に立ち上げました。カンタに出会ったのは10年以上前のことで、初めてバングラデシュの村を訪れた時に村のお母さんが見せてくれたんです。使い古したサリーを数枚重ねることで厚みを出し、それを刺し子刺繍で縫い合わせた生地なのですが、いわゆる花嫁道具として娘がお嫁に行く際に持たせる伝統布として親しまれているそうです。2018年の再訪で工房にお邪魔したら、カンタが山積みになっている様子を見てとても驚きました。“仕事がないと作り手の女性たちが他の工房に行ってしまう”そうで、職人さんたちを繋ぎ止めるために作り続けた結果なのだと知りました。こんなに素晴らしい生地なのだからどうにか循環させたいと考えるようになったのが、カンタ生地に特化したブランドを立ち上げた理由です。

カンタ生地をメインに様々な素材を組み合わせたクッションとポーチ
ブランド名は“アマラ”と読みますが、これはベンガル語で“私たち”という意味があり、幅広い世代の老若男女に届くようにと想いを込めて名付けました。実際の発音はちょっと違うのですが、日本人が聞き取りやすいようにアレンジしています。バングラデシュの工房で見た、村の女性たちが世間話をしながら楽しく縫っている光景が印象的で、そうやって“私たち”みんなで作るブランドだという意味合いも。カンタが循環することで少しでも未来が良くなることを願っています。
どのような形で販売されているのでしょうか?
toUもそうですが、現在はポップアップストアでの販売がメインになっています。今後は卸業者の方ともお取引きするなど、もっとカンタが循環するような仕組みを考えていきたいです。それから、グランピング施設の内装を担当させていただく機会があり、モンゴルの遊牧民が暮らす“パオ”のような広いテントに、カンタのベッドカバーやクッションなどの布アイテムでコーディネートしました。非日常を味わえる空間が好評だったので、今後はもっと宿泊施設の内装を手掛けていけたら。
今後の展望で言うと、toUでは今まで以上に富士吉田の機織り生地の魅力を打ち出していきたいですね。私が知らなかったように、まだまだ富士吉田の機織り文化を知らない方がいると思うので、微力ながらも私の活動を通して伝えていきたいです。また、toUの洋服が一点ものであることや、間口の狭い個性的なデザインであることを考慮して、ポップアップストアでの販売という形をとっているのですが、今後は生地を使ったワークショップを開くなど、お客様に会話や体験を通して興味を持っていただける企画も考えていきたいと思っています。

「Mt.FUJI CAMP RESORT」とコラボした際のカンタを用いた内装(提供写真)
金山さんから見た富士吉田市の魅力
様々な地域で暮らしてきた金山さんですが、富士吉田の印象は?
人口が少ない分、当然人との関わりも密になるので、チャンスに繋がりやすいと私は感じていますね。補助金などのサポートも手厚く、町全体が頑張れって応援してくれるチャレンジしやすい場所だと思っています。人との出会いのきっかけは様々ですが、私の場合はやはりポップアップストアやイベント出店が多いです。イベントの主催者やモノづくりをしている方、またその方を通じてさらに広がっていくことも。あと、この町には面白い個人店や誇りを持って続けている地元の飲食店なども多い気がしますね。きっと住めば住むほどにじんわり面白さが感じられる町ではないでしょうか。
ドットワークプロジェクトに期待されることはありますか?
私のアトリエと同じフロアにあるドットワークPlus・ドットワークPlus Labですが、目的を持って移住されてきた方が繋がりやすい場所という印象があります。私も含め、移住者は地元の方の輪に入っていくのが難しい面もあるので、これからも地元の方と交流できる企画などがあったら嬉しいです。時々開催されているイベント「ドットワークBAR」にもいつか参加してみたいですね。先頭に立って、こんなやり方があるというのを見せていただけると、個人で活動している者としてとても参考になります。今後、私も何かお役に立てることがあったらやっていきたいです。
金山靖子さんからのメッセージ
富士吉田は個性的な人やお店が多く魅力的な町ですし、人と繋がる機会も多いので、新しいことにチャレンジしたい方にはぴったりな町だと思います。サポートも受けやすいので、挑戦したいことがある方には最適な環境ですよ。
toU /amAra
https://tou-clothes.com
◯「富士吉田市まるごとサテライトオフィス」とは
「富士吉田市まるごとサテライトオフィス(略:まるサテ)」は山梨県富士吉田市全体を使って、様々な事業者が富士吉田市内に自分のサテライトオフィス(企業または団体の本拠地点から離れた場所に設置されたオフィス)を手軽に持つことができる取り組みです。
(詳細:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000093585.html)
◯富士吉田市まるごとサテライトオフィスでは取材に応じてくださる方を募集しております。
「地域活性や街づくりに興味がある!」
「今こんな活動をして街を盛り上げている」
「頑張っている人がいるので記事で紹介してほしい」
「面白い構想があるのでこんな方と繋がりたい」などなど。
ひとつでも当てはまったら是非ドットワークPlusにいらしてください!
写真・記事執筆/高井まつり(KINONE)