「お茶を通じて人と森に健やかになってもらいたい」
西裏から森の魅力を伝える田川貴章さん・美雪さん
富士吉田市の西裏通りで地域の草木を使ったお茶屋「kinoca」の開業準備を進めている田川貴章さん・美雪さんご夫妻。お茶を通じて森の魅力を伝え、人と自然が共に健やかになることを目指しています。ホテル勤務の経験やヨガ講師、育児を通して得た気づきを活かし、五感で癒やされる空間づくりに挑戦中のお二人。地域の生産者が作るものの“魅力を伝えるプレイヤー”だと表現されるお二人に現在の想いを伺いました。
山梨移住から9年、これまでの道のり

インタビューに応じてくださった田川美雪さんと田川貴章さん
本日はよろしくお願いします!
こちらこそよろしくお願いします。
現在の活動に至るまでの経緯を教えてください
美雪さん:
今は、富士北麓の樹木や草木などを用いたお茶屋さん「kinoca」のオープンに向けて準備をしているところです。すごく小さなお茶屋さんなのですが、お茶を通して森の魅力を伝えながら、人も森も健やかになるようなことをテーマに様々な活動をしていく予定です。元々は私も夫も国内のホテル運営会社に勤務していて、異動をきっかけに河口湖に来ました。最初は短期間のつもりが、想像以上に居心地が良く、そのまま7年も。私は2年ほど前に、夫もその数ヶ月後に退職し、それからは個人事業主としてお互いにやりたいことを進めてきました。その後、娘の保育園入園を機に富士吉田へ引っ越しました。
退職後はヨガの講師を1年ほどやっていました。ホテルに勤務していた頃から“お客様を迎えるときに、癒す側の自分も健やかであること”が重要だと感じていましたし、子どもが生まれたことも健康への意識が変わったきっかけですね。ただ、ヨガをすればするほど“ヨガだけでは健康になれない”という思いに至り…。結局、食べているものが体を作り、住んでいる環境がメンタルに影響しているのだと思います。なので、体の基礎を作る“食”とメンタルや体を整える“ヨガ”のどちらも大切にしたい。体にも心にもいいことをできないかなと考えるようになりました。

「屋外でのヨガは森からの恩恵を感じられる」と美雪さん(提供写真)
貴章さん:
私は退職後、小さい子どもたちの育児や家事をしながら、これまでの知見を活かしてホテル運営でお困りの方にアドバイスをする、宿泊業アドバイザーの仕事もやってきました。前職では、ホテル経営マネージメントに携わったり、調理やフロント、レストランサービス、客室の清掃など一通り経験しました。現在は妻と立ち上げた(株)MOTHER TREEで「食を通じて人と地球を豊かにする」をキーワードに活動しています。お茶屋の開業もその一環です。
美雪さん:
前職は、一日の中でポジションを変えながら働くのが基本のスタイルでした。いろんな立場を経験するからこそ、相手の気持ちがわかって、どんな風に動いたら効率が良いか一人ひとりが考えることに繋がります。そうやってチームが強くなっていくというのは大きな学びでしたね。
コンセプトは “気付きのあるお茶屋さん”
お茶屋さんを始めようと思われたきっかけを教えてください
貴章さん:
長年ホテルで飲食に携わってきて、やっぱり食事は多くの方が旅行の中で楽しみたいポイントですし、生きていく上でも重要なこと。飲食業をやりたいという想いは二人の中にあったので、地域の資源を使って何か面白さとか癒しをお届けしたいと考えました。
美雪さん:
先ほどの話に繋がるのですが、“体にも心にもいいことをできないかな”と考えていたときに『HERBSTAND』という富士吉田を拠点にハーブにまつわる様々な活動を行うチームに出会いました。彼らは自家栽培のハーブや富士北麓で採取した草木でお茶を作ったり、森林再生や森林活用など、多岐にわたって活動されています。ハーブティーの美味しさに感動して生産者を訪ねてみたのですが、リーダーの平野さんの興味深いお話にとても惹き込まれました。特に印象に残っているのは「森の木を少し切ることでそこから光が差し込むようになり、森が回復する循環が生まれる」といった話です。必要な分だけを剪定してお茶をつくり、それが森の循環に繋がっていることに驚きました。
貴章さん:
初めて平野さんのラボのような事務所に伺ったとき、松やモミ、ヒノキなど様々な樹木の香りを嗅がせてもらいました。それを嗅ぐことでどんな変化が起きるかなど、リアルな体験とともにお話を伺いました。普段歩いていて街路樹の香りを嗅ぐことは少ないですが、身近な環境にまだまだ知らないことがたくさんある。それを目の当たりにして、自然の奥深さを感じましたね。

現代人が抱える不調に寄り添ったお茶や軽食を提供する予定(提供写真)
お店のコンセプトを教えていただけますか?
美雪さん:
テーマは“気付きのあるお茶屋さん”です。大きなビジョンは“人と森を健やかにする”というところにあるのですが、まずはお客様にとって何かしらの気付きがある時間を提供できればいいなと思っています。一杯のお茶を通して自分の体を労わる大切さに気付いたり、美味しいもので健康になれることを知ることができたり。純粋に“松の葉っぱってこんなに美味しく飲めるんだ!”とか。あとは、お茶を淹れているところを見てもらいながら、待ち時間の心地よさを感じていただけたら嬉しいです。カウンターにたった4席のみの小さなお店ですが、イートインをご利用されるお客様には、そういった目で楽しむ時間も提供できたらいいなと考えています。
場所は飲み屋街として知られる西裏です。二人ともウェルネス事業にも興味があるので森の中など、より自然に近いところも検討していたのですが、最終的には人の行き交う歴史のある場所、それも飲み屋街に。あえてこの場所から体に良いことをお伝えしていくのも良いんじゃないかと思うんです。商店街の先には富士山が見えて、海外からの観光客も多い通りですし、富士吉田や森の魅力をアピールするにはちょうど良い場所だと思っています。

一つの建物にkinocaを含め3店舗が入っている
お茶をきっかけに広がる森とのつながり
お茶に使われる草木はどのように採取されているのでしょうか?
貴章さん:
今はHERBSTANDさんをはじめ、富士北麓の農家さんが剪定した果樹の枝葉や柚子の実などを購入させていただくなど、活動の輪を広げているところです。私たちはそういった地域の生産者の方々が作られるものの“魅力を伝えるプレーヤー”だと思っています。自分たちだけではなく、関わってくださる方たちにもメリットがあることを意識しながら事業をやっていきたいです。

「棚には茶葉やティーカップを並べたい」と美雪さん
美雪さん:
今後やりたいこととしては、セラピーガイドの資格を取得したいと思っています。森林セラピーといって「この木にはこんなセラピー効果がある」など、ガイドをしながら森の中を歩くツアーがあるんです。森林セラピーを学ぶことで森の知識も増えますし、ヨガと絡めたらより心身の癒しに繋がるのではと考えています。kinocaでもお茶の話の中でお客様にお伝えできることがありそうです。お店で森の話を聞いたことで実際に森に入ることに繋がるなど、そんなきっかけづくりもこの先していきたいことの一つですね。
社名のMOTHER TREEにはどんな意味が込められているのでしょうか
貴章さん:
実は『マザーツリー(英語タイトル:FINDING THE MOTHER TREE)』という本があり、その本からインスピレーションを受けてこの名前をつけました。とても分厚い本なのですが簡単にまとめると、女王蜂のように森にも“母なる木”が存在すると言われていて、それをカナダの学者が研究して解き明かした話が載っています。木は根を通して菌を共有し合いながらコミュニケーションをとっているのだそうです。そんな“母なる木”(マザーツリー)のようにハブとして存在できたらな、という想いがあるので、我々の活動やお店を利用してくださる方が何かを感じ取って、社会に良い影響、良い意識、良い活動が広がることをしていきたいですね。
お二人が感じる富士吉田の豊かさ
富士吉田に住んで二年ということですがどんな町だと感じますか?
美雪さん:
やっぱり人の魅力が大きいですね。富士吉田の中心地に延びる本町通りと、それを挟むようにして西裏通りと東裏通りがあります。その昔、東裏通りが機織りの町として栄えていて、仕事を終えた職人さんたちが西裏の歓楽街でお酒を楽しむ。そんな流れがあったそうなんです。富士五湖それぞれに魅力があり世界各国から観光客が来ていますが、これほどまでに昔から人がいてドラマがあるのは富士吉田ならではかもしれません。自然災害や不作などで生き抜くために苦労をしてきた歴史もあるそうです。そんな背景もあり、町を見ただけでも人の温かみが感じられるのだと思います。
貴章さん:
富士山との距離が近いというのがまず大きな魅力として挙げられますよね。昔から巡礼者が江戸から訪れていて、富士山の麓には巡礼者のための宿もあるなど、富士山とともに栄えてきた歴史が垣間見えます。富士講の歴史や織物の文化などが根付いていて、そこに面白いプレーヤーがたくさん集まっていて、街の魅力を作っている気がします。
それから、富士吉田に引っ越すきっかけにもなった娘が通うこども園は、富士山の麓の林の中にあり、運動会には森の中を走ったり、お泊まり会では五右衛門風呂に入るなど、自然の中で過ごすことを大切にしている園なんです。車で送迎する慌ただしい毎日ではなく、子どもと一緒にあぜ道を歩きたいと思い、徒歩圏内のアパートを借りました。
美雪さん:
すぐ側に川が流れていて、森もあるので自然に触れながら子育てできます。買い物にも困らず近くで大抵のものは揃うので、非常に子育てがしやすい環境だと思いますね。

二人姉妹の子育て真っ最中(提供写真)
ドットワークプロジェクトに期待されることはありますか?
美雪さん:
歴史のある街だからこそ、新しくきた人と昔からいる人が集う場所が必要だと感じます。接点がなければ相乗効果も生まれないと思うので、ドットワークPlus・ドットワークPlus Labはこれからも誰でも気兼ねなく集える場であってほしいです。あとは、結びつけてくれるきっかけになるようなイベントがさらに増えていくと嬉しいなと思います。
貴章さん:
サテライトオフィスというと移住が浮かびますが、まずは関係人口が増えればいいなと思うので、たとえば365日のうち5日だけでも滞在してもらうとか、海外の人が数日滞在する中で何かしらの活動をしてもらうとか。それだけでもここに暮らす人が刺激を受けたり、アイデアをもらえると思うんです。関係人口が増えて多様な意見や人が集まる町になっていくことを望んでいます。
田川ご夫妻からのメッセージ
美雪さん:
富士吉田は富士山以外にもまだまだ眠った魅力がたくさんあると思うので、新しいことをしたい方にはすごく楽しい場所ではないでしょうか。興味のある方はぜひ滞在しにきてみてください。
貴章さん:
昔からここに根付く文化を形を変えて新しくする地域創生の動きもいろいろなところであるので、とても面白い町だと思います。それから現在kinocaのオープンに向けてクラウドファンディングにも挑戦中です。ぜひ応援していただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします!
kinoca
Instagram
https://www.instagram.com/kinoca.tea
クラウドファンディングはこちら(2025年4月末日終了予定)
https://camp-fire.jp/projects/825395/view
◯「富士吉田市まるごとサテライトオフィス」とは
「富士吉田市まるごとサテライトオフィス(略:まるサテ)」は山梨県富士吉田市全体を使って、様々な事業者が富士吉田市内に自分のサテライトオフィス(企業または団体の本拠地点から離れた場所に設置されたオフィス)を手軽に持つことができる取り組みです。
(詳細:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000093585.html)
◯富士吉田市まるごとサテライトオフィスでは取材に応じてくださる方を募集しております。
「地域活性や街づくりに興味がある!」
「今こんな活動をして街を盛り上げている」
「頑張っている人がいるので記事で紹介してほしい」
「面白い構想があるのでこんな方と繋がりたい」などなど。
ひとつでも当てはまったら是非ドットワークPlusにいらしてください!
写真・記事執筆/高井まつり(KINONE)