このまちの過去と未来がここでつながる!「富士山北口御師 菊谷坊」

今回のインタビューに答えてくださった「菊谷坊」の秋山真一さん

大正時代に作られた掛け軸や、江戸時代に使われていた食器や家具。それらが並ぶ座敷の鴨居を見上げると、歴代当主の写真と肖像画。約500年の歴史を持ち、富士吉田で富士講と呼ばれる富士山信仰の修行者を受け入れてきた富士山北口御師「菊谷坊」さん。その18代目当主にあたる秋山真一さんに富士吉田の街づくりについてお話を聞きました。

秋山さんは、大学で社会課題や地域課題の解決を専攻し、歴史文化的価値の高い「菊谷坊」を現在の街づくりに活かす取り組みを構想中です。一般の観光客の受け入れにも注力し、日本各地の好きな拠点を共有できるプロジェクトLiving Anywhere Commons(以下 LAC)にも参加するなど、新たな試みにも挑戦しています。今回のインタビューでは、2040年、60年に一度の富士山の生まれ年と言われる庚申御縁年に向けた御師と街づくりなど富士吉田の未来についても語ってくれます。

▼菊谷坊と富士吉田の関係性、富士吉田という街について

富士山北口御師「菊谷坊」
本日はよろしくお願いします!

こちらこそよろしくお願いします

まずは御師について、ざっくりでいいので教えていただけますか?

日本には古くから山を信仰し、修行する人々がいました。特に富士山は日本一高い山であり、多くの信仰と修行者が集まります。今から500年前の16世紀ごろ、富士山で修行する修行者のために宿と祈祷所を提供する「御師」が現れると、富士登山の大衆化と団体化が進んでいきました。この集団は富士講と呼ばれています。富士講の最盛期だった江戸時代には「江戸は広くて八百八町、江戸に旗本八万騎、富士講講中八万人」とも言われ、富士吉田にも90軒ほどの御師がいたそうです。

そんなに江戸庶民に人気なら、もう江戸文化と言えそうですね

当時、この地域はあまり米や農作物も採れず、貧しい地域でした。そのため、富士講の方の滞在は御師のみならず、関連の産業が潤う地域の大切な収入源だったのです。僕のご先祖は、富士登山が最盛期の夏には富士講を迎え、登山ができなくなる冬場には、檀家回りとして富士講の地元を訪れて翌年の誘致を行っていたようです。

富士講の寄付により建立された菊谷坊の神殿
古くから街になくてはならない存在だったんですね。

そうですね。現在では、御師の家の数も減り、ここ「菊谷坊」を入れても10軒ほどです。昔のように富士講の人が盛んに訪れるというわけではありませんが、それでも富士山信仰や富士吉田の歴史や文化を伝える貴重な資源として、今も観光客の方が訪れてくれます。そういった意味で、御師と富士吉田との関係は今も昔も変わらないのかもしれません。ただ現在では昔と違い、御師について地元の人でも知らない方がいらっしゃるので、そういった方にも是非知ってもらえたらと思っています。

▼ドットワーク富士吉田と出会ったきっかけと.work BARで発表しようと思った理由

多くの富士講が富士登山の英気を養った菊谷坊の大広間
ドットワーク富士吉田とはどういうきっかけでつながったのですか?

日本各地の拠点でメンバーが宿泊施設を共有できるワーケーションの宿泊プログラムLACがきっかけでした。ドットワーク富士吉田(キャップクラウド株式会社)さんが、同プログラムの一環で、宿泊施設を探していたときに声をかけていただいて。実は菊谷坊も2020年の9月からLACに参加しています。

500年の歴史とワーケーションはすごい組み合わせですね。御師の家としても新しい挑戦だったと思いますが、なぜLACをはじめようと思ったんですか?

単純に、こういったサービスが今後伸びていくんだろうなという予感がありました。今はコロナ禍でどこも大変ですが、それ以前にも地方移住とか多拠点居住という需要は少なくなかったと思います。実は、御師の家でも宿泊をやっているところ自体が少ないんですよ。だからこそ、ワーケーションに歴史的・文化的に貴重な御師の家が選択肢としてあってもいいかな、と。利用者の方にも貴重な体験みたいで、非常に好評ですよ。

なるほど、ワーケーションのキーワードで菊谷坊とドットワーク富士吉田は繋がったんですね。そして、.work BARでの発表につながるわけですね。
東京丸水講社という富士講から奉納された掛け軸

そうですね、ドットワーク富士吉田を運営するキャップクラウド株式会社さんが「ドットワーク富士吉田を地域活性や街づくりの起点になるような、新しい動きが生まれる場所にしたい」という想いをお持ちで。同店が定期的に開催している交流イベント.work BARのリアル(対面形式)での開催にあたって、コロナ禍でも十分な準備や工夫を行ってようやく実現できそうというタイミングに、地域活性というキーワードが重なってお声がけいただきました。

示し合わせたような、ジャストタイミングですね

なので、もっとこういう街の姿を見せたいとか、僕の考える富士吉田の課題みたいなところをまずはみんなに知ってもらって、それに対する意見が聞けるんじゃないかなっていう期待が、発表をした大きな理由ですね。発表後にはいろんな人から反応をいただけました。

▼菊谷坊の目指す未来と「富士吉田まるごとサテライトオフィス」が重なるところ

富士講の方々の様子を残す貴重な写真の数々

菊谷坊というか僕が目指しているところかもしれませんが、建物や土地といった資源をうまく活用する方法を考えるのが好きなんです。発表中にも富士吉田の街づくりの課題として市域の拡大や中心市街地の空洞化、空き家問題などをいくつか挙げました。

富士吉田も街づくりの課題があるんですね

例えば若い世代が家を建てようと思ったら、中心地ではなく郊外になりがちです。それは郊外の耕作放棄地など建物がない場所のほうが売る側にしても買う側にしても扱いやすいから。その結果として市域が拡大、インフラやゴミ収集など街としての維持費が高くなっていきます。この地域なら冬の雪かきが必須ですが、そういったコストも上がっていきます。人口が増加している時代ならいいんですが、そうもいきません。一方で、中心地には空き家が増えていき、その活用方法の是非が問われています。

なるほど、暮らしているとなんとなくそうかな、という程度でしたが、いざ言葉で言われると問題が明確化しますね

これはほんの一例に過ぎませんが、地域活性や街づくりの根本的な解決策は少なくとも人口を維持することです。できれば移住も積極的に活用し、人口の増加を計りたいところですが、まずは出ていく人を減らすことが先決です。結局は人が出ていく地域に移住者は集まりませんから。そして富士吉田を含め、人が出ていく地域の特徴は「仕事がない」ということです。

たしかに。仕事があればあえてその地域から出ていくという、大きな理由の一つがなくなりますよね。
街づくりのキーワードで熱が入る秋山さん

だから、リモートワークをできる環境を整備して、富士吉田をリモートワークの一大拠点にしてしまおうとういうキャップクラウドさんの取り組みには、すごい共感するところです。人口維持はもちろん、地域の外からやってくる人にも働く環境が整っている。そうなれば、古くから人を惹きつけるこの地域の良さを最大に発揮した街づくりにつながっていくと思います。

▼富士吉田がもし、まるごとサテライトオフィスになったら…こんなことが起こる!と期待していること

常連であった富士講から奉納された様々な品が菊谷坊の歴史を物語る
キャップクラウド株式会社が進める富士吉田をまるごとワーケーション化しようという構想「富士吉田まるごとサテライトオフィス」が実現したら、富士吉田の町がどんな風に変わると思いますか?

ワーケーションタウン化が進み、富士吉田がまるごとサテライトオフィスになったら、様々なバックボーンをもった地域外の人が多く滞在してくれるはずです。彼らが新しい消費を生むのはもちろんですが、地元の人には見えていない富士吉田の一面を見てくれるのではないかと思います。

地元の人には見えていない富士吉田の魅力ですか?

たとえば、富士吉田の地元の人の多くは車がないと生活できない地域だと感じていますが、移住した人の中には「車がなくてもあんまり不便ではない」という方もいます。こういった方は徒歩や自転車といった方法で生活圏をカバーできるライフスタイルを確立できているので、街の見方が大きく異なるはずです。なぜ車がないと生活できない街なのか、車がなくても生活できるライフスタイルとはどんなものなのか、これらは地元の人だけではどうしても気づきにくい。

.work BARでの秋山さんの発表を聞いた参加者からは未来の富士吉田の構想がズラリ

そして重要なのはそれを発表するというか共有する場所があること。知らないままだと存在しないのと同じですから。だからドットワーク富士吉田みたいな人と人をつなぐ場所が大事なんだと思います。あそこに集まる人達はそういう想いが少なからず重なっている人達だと感じています。その中で同じ方向を目指せる人達と、何かしらで連携していければ、きっと面白いことが起こるんじゃないかと。

たしかに、面白い化学反応が期待できそうですね

そして菊谷坊もそんな場所を目指しています。なぜ富士吉田を滞在場所に選んだのか、富士吉田に来てどんなことを感じるのか。そのようなことを滞在者と地元の人が語り合えるBarスペースのようなものができたら、また新しいことが起こるんじゃないかと密かに期待しています。その地元の人と外から来た人のターミナル駅みたいな場所に「菊谷坊」をしていきたいというのが僕の構想です。地元の人に聞くと、実は外からの滞在者は大歓迎だよって人も結構いるんです。そういうことを発信していけば、より富士吉田の魅力が増して移住する方も増えるんじゃないかと思っています。

秋山真一さんからのメッセージ

2040年、富士山は60年に一度、庚申御縁年と言われる生まれ年を迎えます。そのときに菊谷坊を含めた御師や富士山信仰、そして富士吉田がもっと魅力的で盛り上がれる場所になっていたらな、と。そこに向けて菊谷坊と富士吉田を盛り上げていくのが僕のミッションです。そして、僕はインフラや街づくりといった全体的なシステムを考えるのが得意なので、同じ方向を見てアイディアを出してくれる方、挑戦してみたい方と繋がれたら嬉しいです。もちろん富士山信仰も御師の家とともに伝えていくので、是非遊びに来てくださいね!

富士山北口御師「菊谷坊」

(ウェブサイト:https://oshi-kikuyabou.amebaownd.com/)

菊谷坊では、富士講の歴史を知ってもらうために、宿泊者以外の方にも見学してもらえます。興味のある方は是非訪れてみてくださいね。


◯「富士吉田まるごとサテライトオフィス」構想とは

「富士吉田市内をまるごと使ってテレワークできる環境を整えよう」という構想です。

日本は新型コロナウイルス感染拡大の影響で多くの企業やオフィスワーカーに「在宅勤務」が推奨されて来ました。しかし、自宅で働くことに息苦しさ・やりづらさを抱えている人たちの存在は今や社会的な問題です。

そこで当社は山梨県の富士吉田をモデルタウンに「日常型ワーケーション」を提案しています。日常型ワーケーションとは、日中は通常勤務のようにしっかり仕事をして、仕事の前後の時間(朝・夕方〜夜)に地域の魅力に触れられるスタイルです。

このスタイルは、作業環境の変化による生産性の向上のほか、地域の魅力に触れる機会の創出や、常に変化を感じる生活のなかで発想力・企画力などのクリエイティビティが培われるというメリットがあります。

富士吉田は新宿から1時間強と好立地ながら、富士山が目の前に広がる絶景地。当社は富士吉田でワーケーションができる仕組みづくりに取り組んでいます。まるごとサテライトオフィスの富士吉田をぜひ体験してください!

◯富士吉田まるごとサテライトオフィスで取材に応じてくださる方を集しております。

「地域活性や街づくりに興味がある!」

「今こんな活動をして街を盛り上げている」

「頑張っている人がいるので記事で紹介してほしい」

「面白い構想があるのでこんな方と繋がりたい」などなど。

ひとつでも当てはまったら是非.work BARにいらしてください!


記事執筆/宮下 高明