『はこづくりから、くらしづくりへ』。ものづくりの先を見据える株式会社滝口建築の滝口伸一さん

晴天によし、夕焼けによし、空にそびえる威風堂々とした立ち姿。世界的にも有名な富士山の絶景は、多くの観光客がカメラを向ける力を持っています。その麓に広がる富士吉田の街も、魅力的な街並みから、街歩きを楽しむ観光客が少なくありません。そして、その街を作る仕事の一つに建築業があります。今回は、富士吉田市内で建築業を営み、富士吉田市をまるごとサテライトオフィスにしようという構想の中心となる『ドットワークPlus』を設計した株式会社滝口建築の滝口伸一さんにインタビュー。富士吉田市やドットワークPlusに対する想い、ワーケーションが進んだ富士吉田市の未来像などを聞きました!

 

株式会社滝口建築

https://www.taki-ken.com/

 

▼滝口伸一さんのご経歴やご活動について

今回のインタビューに答えてくださった株式会社滝口建築の滝口伸一さん
本日はよろしくお願いします!

こちらこそよろしくおねがいします。

さっそくですが滝口さんのご経歴を教えていただけますか

僕は元々富士吉田市の上暮地出身で三人兄弟の長男として生まれました。実家は工務店だったのですが、17歳のときにどうしても映画監督にになりたくて家を飛び出したんです。何のツテもなく上京して、彷徨い歩くような感じだったんですが、たまたま映像業界の人に拾っていただき、希望の業界で働くことができました。15年ほどその業界にいましたが、ドキュメンタリーや企業映像制作の仕事をこなす傍ら、自主制作の映画を作ったりしていました。

ただ、あまりの忙しさに追われて、莫大な仕事量に疲弊する日々の中、体を壊してしまったんです。そして、半ば家出のような形で出てきた実家に、気づけば戻ってきていました。そこから半年ほど療養し、体の調子も戻ってきた頃、実家の工務店を継いだ弟たちが頑張ってくれている姿を見て、「そろそろやるか」という気持ちになって手伝うことにしたんです。

そこから地元での活動がスタートする訳ですね

その時には30歳を超えていたのと、工務店の核となる建築士などの資格は弟たちがすでに持っていたので、新たに大工や建築士になろうとは思いませんでした。そして、ずっと映像制作の仕事をしてきた自分にできることは何だろうと考え続ける中で『限られた予算の中でいろいろな職人さんたちと、施主の方の希望を叶え、それを超えた感動を提供していく』という仕事の構造は、映像制作も工務店も同じなんだと気づきました。映像制作ではプロデューサーとして全体をまとめる仕事もしていたので、今では工務店でもそのような立ち位置で動いています。

滝口さんが東京理科大卒の建築家と共働した富士山のふもとの別荘

また、インテリアコーディネーターや福祉住環境コーディネーター、ファイナンシャルプランナーなど、一緒に働く仲間が持っていない資格も取って、施主の方により大きな感動を与えられるように仕事を頑張っています。そして、そんな立ち位置で働きながら、やっぱり工務店は地場の仕事で、地域が元気でないと仕事が立ち行かないという実感したことから、少しずつ目線が地域全体へと向いていくようになりました。

目線が地域全体へと向いていくことで、ご活動に何か変化はありましたか?

それまではシンプルに建築の仕事をしてきたんですけど、街づくりのためにはもっと多面的に活動することが大切だと思って、会社のテーマも『はこづくりから、くらしづくりへ』と変更しました。今でこそ定住促進センターやドットワークさんなどがありますが、その当時は全く何もなかったので、富士五湖青年会議所や自治会、市の外郭団体や地元の催事などに参加させてもらい、なるべく地域に関わるように努めました。

その活動の中でもキーポイントとなったのが、下吉田の本町通りにある空き家を借りて”LITTLE ROBOT”というコミュニティカフェを始め、子ども食堂や認知症カフェなどの活動を行ったことです。その空き家の活用がきっかけで、当時、富士吉田市が慶應義塾大学と連携して始めた一般財団法人みんなの貯金箱財団(現ふじよしだ定住促進センター)とも連携が生まれました。連携当初は空き家の活用などのサポートをしていましたが、今ではふじよしだ定住促進センターの代表も任せていただき、富士吉田市の良さを内外にアピールできるよう、理事やスタッフ、地域おこし協力隊のみんなと一緒に活動しています。

▼『富士吉田まるごとサテライトオフィス構想』に想うこと

健康科学大学と連携しコミュニティカフェを利用した認知症カフェ

 

テレワーク環境を街全体で整えて、ひとつのワーケーションタウンを目指す『富士吉田市まるごとサテライトオフィス』についてどう思われますか?

コロナ禍やさまざまな社会情勢の変化がありながら、それでも県内外から、特に東京からいろんな人たちが富士吉田市に来るようになってくれたおかげで、街全体の可能性は広がってきていると思います。ただ、僕が地域との活動の中で思うのは、色々変わっていく中で街に対する”感覚”は持っておきたいということです。

当たり前といえば、当たり前なんですが、地域には歴史があって、昔ながらの価値観の中で生きている人たちもたくさんいて、政があり、新しい命もたくさん生まれて。富める人・貧しい人、自由な人・不自由な人、そういった多面的なものが街なんだなぁという感覚的な認識は意識的に持つようにしています。その上で、ドットワークPlusのような新しいコワーキングスペースだったり、地域一体を活用したまるサテ構想(富士吉田市まるごとサテライトオフィス構想)は、どうあるべきで、僕がどんなふうに関わっていけるだろうということは常に考えるようにしています。

まるサテ構想も大きなまちおこしのひとつになると思いますが、例えばそもそもまちおこしのゴールはどこなのか。社会が複雑化して、さまざまな価値観がありますが、僕は『子育てができる程度に稼げる』というのが地域が回っているひとつの指標になるんじゃないかと思います。地域おこし協力隊の若いメンバーも、みんなまだ所帯を持つみたいなところにイメージがいく余裕がないというのが続いてしまっていて。彼らは本当に頑張って地域を盛り上げる取り組みの方に力を大きく割いているという印象です。

もちろんそういった取り組みは非常に重要ですが、継続的に活動していく意味でも、やはり経済的なことも当然含めてもう二段三段と仕組みを整えていくことがまちおこしには大切なんだと思います。

定住促進センターの拠点である旧富士製氷himuroギャラリーは、東京理科大と連携して施工した
街が元気になるというのはそこに住む人々が元気になるということですよね。

地域のポテンシャルの話になりますが、富士吉田市が織物の街として有名であっても、地域全体のベースとしては製造業に従事している方が多いと思います。最近でも大手企業が市内に大きな工場を作って雇用を生み出しています。なぜ富士吉田市に大きな工場を作ったのかといえば『富士山が見えるから』『水が綺麗だから』という理由ではなく『この富士吉田市に住む製造業に携わる人々の手先が器用で実直で、全国的に見ても不良品が少なく信頼できる』という観点からだと聞きました。

この街の人々の気質として、そもそもものづくりや製造業に向いていて、織物もそのうちのひとつなのではないかと思います。よくある話かもしれませんが、外の企業や街工場などが一緒に共同開発していくチャレンジなどを行政さんが今よりもっと応援してくれたら、街のポテンシャルを底上げできるように思います。その流れが先ほどもあった『子育てができる程度に稼げる』街になり、ひいてはその子供たちが大きくなって生計を立てていくことができる街に繋がっていくのではないでしょうか。

地域に興味を持ってもらうイベントというのはここ十年ほどで形になってきていて、なかなかの成果を残せていると思います。特に若い人たちには、富士吉田市が先進的だという印象を与えることができていると思うので、次のステップはちゃんと経済的にも回していけるようにしていくことだと思います。その過程で新たな事業や会社が富士吉田で誕生していくことになると思いますが、そこでは地域の内外を繋ぐ『まるサテ構想』が必要不可欠ではないかと思っています。

滝口さんは流鏑馬祭りが行われる冨士山下宮小室浅間神社で馬の飼育や事業にも関わっている
滝口さんが設計されたドットワークPlusにもその想いを込められたのでしょうか?

僕がドットワークPlusに込めたのは『外から来た人にワクワクしてもらいたい』『地域の人たちと繋がれるような場所になってほしい』ということです。そのために地域の人たちも気楽に入りやすい、地域の人たちもそこで何かをできるような場所に設計しました。もちろんデザイン的にも東京から来た人が見ても良いと思えるような施設に仕上がっていると思います。ドットワークPlusは東京と地域を繋ぐ中間点になるようなワークスペースになっていくと思いますね。

今、富士吉田市のQ-STA近くにある中曽根地区で、道路拡幅工事が行われています。そこで中曽根地区の住民や店舗オーナーによるまちづくり会議も行われていますが、そこでも「ドットワークPlusができたら、東京の企業が空き店舗を何か有効活用してくれるのでは」という期待感を持った発言も出てきています。ドットワークPlusがオープンし、実際に市内外から新たな企業や人材が入ってくることで、富士吉田市も市民も変化していくでしょう。

▼富士吉田がもし、まるごとサテライトオフィスになったら…こんなことが起こる!と期待していること

ドットワーク富士吉田店のミーティングルームでインタビューに答えてくれる滝口さん
富士吉田がまるごとサテライトオフィスになったらどんなことが起こると思いますか?

例えば市内外のフリーランスの方や企業が繋がることで、それぞれにチャンスや成長やストーリーは生まれると思います。その総和が全体の変化につながるので、そこは非常に重要です。それが少しずつ街を変えていき、面白いことも多く起こってくると思います。

一方で、市民が「まるサテ構想ってすごいんだ」となるためには、目に見えて大きな成果が出なきゃいけないとも思います。例えば、まるサテ構想で富士吉田市に繋がれた個人や企業が、地元の個人や企業と生んだ事業が成長し、上場まで至ったら、それは目に見えたすごいことじゃないですか。そこまで行って初めて、市民はまるサテ構想を実感できるように思います。もちろんそれは決して簡単ではないけど、これまでになかった規模で市内外を結ぶ構想だからこそ、大きく期待しています。

滝口伸一さんからのメッセージ

ものづくりも効率化が進み、考えなくてもものを作れるような現場が増えてきています。一方で、弊社は職人が考えながらものを作る現場をキープしようとしています。それは『感動を与えるものづくり』がしたいから。そのために、考えながら誰も見たことないものや感動を与えられるような何かを作りたい職人さんと一緒に仕事をしていきたいと思っています。しかし、地元だけではそういう方はなかなか探しきれなくて、育てるにしても時間がかかるので、もし、この富士山の麓で一緒にものづくりをしたいなという方がいたらぜひお声がけいただきたいと思います。

滝口建築

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◯「富士吉田市まるごとサテライトオフィス」構想とは

「富士吉田市まるごとサテライトオフィス(略:まるサテ)」は山梨県富士吉田市全体を使って、様々な事業者が富士吉田市内に自分のサテライトオフィス(企業または団体の本拠地点から離れた場所に設置されたオフィス)を手軽に持つことができる取り組みです。

(詳細:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000093585.html

◯富士吉田市まるごとサテライトオフィスでは取材に応じてくださる方を募集しております。

「地域活性や街づくりに興味がある!」

「今こんな活動をして街を盛り上げている」

「頑張っている人がいるので記事で紹介してほしい」

「面白い構想があるのでこんな方と繋がりたい」などなど。

ひとつでも当てはまったら是非ドットワークPlusにいらしてください!

記事執筆/宮下 高明