“この場所ならでは”のチャレンジで地域を活性化。
富士吉田市役所ふるさと創生室・萩原美奈枝さん

 地域ならではの魅力的な返礼品がもらえると年々注目度が上がっている『ふるさと納税』。そのふるさと納税の“寄附金を集める地域ベスト10”に富士吉田市が入っていることはご存知でしょうか。今回は、ふるさと納税のキーパーソンであり、富士吉田市役所ふるさと創生室の部長である萩原美奈枝さんにインタビュー。地域活性化においてクラウドファンディング型で先にプロジェクトの有り様を示す理由や、市民のために飛び回る原動力、富士吉田の未来についてなど、多岐に渡ってお話してくださいました。

富士吉田市役所入庁からふるさと創生室部長になるまで

インタビューに応じてくださった『ふるさと創生室』部長・萩原美奈枝さん

 

本日はよろしくお願いします!

こちらこそよろしくお願いします。

市役所に入庁された経緯を伺ってもよろしいでしょうか?

私は子どもの頃から保育士になるのが夢でした。幼稚園の先生になると“結婚後は退職”というのがその当時一般的だったのですが、一生続けたいと思っていたので、結婚後も続けられる“市役所直轄の保育士”になろうと決めていました。大学卒業後、地元・富士吉田市の保育士採用試験を受けるつもりでいたのですが、たまたまその年は募集がなくて。とりあえず市の職員になって、いつか保育園に異動できればいいなという考えで入庁しました。夢の実現のために入ったのですが、仕事をしていくうちに“あ、この仕事いいな。保育士じゃなくてもいいかも”と思うようになり、気づけば残り数年というところまできました。

鮮やかな壁画が目を引く富士吉田市役所庁舎

 

行政の仕事を続けたいと思うきっかけがあったのでしょうか?

最初に配属になったのが学校教育課でした。その中で、障害のあるお子さんの就学先を決めるという仕事をしていたのですが、その時に何人もの親御さんとお子さんの将来について考えるという経験をしました。最終的な就学先が決まったときに、嬉しそうな顔の親御さんの顔を見て “皆さんが困っていることに対して自分なりに解決していける仕事っていいな”と思ったことが始まりでした。

そのあと異動した市民課では窓口で書類の手続きや発行をしていました。住民票や印鑑証明って一生のうち何度も取りにくるものではないので、皆さん難しく感じられるのですが、それをわかりやすく説明すると喜んでもらえて。自分が一生懸命取り組むことで窓口の空気をプラスに変えていけると実感したんです。市民の方がニコッと笑った顔を見ると嬉しくて“実はすごい仕事だな”と。これをありとあらゆる職種で発揮できるなら、この仕事を続けていくのもいいなって思いました。

 

ふるさと創生室・部長としての活動を教えてください

『ふるさと創生室』は、市の組織改正に伴い作られたもので、実はこの夏にできたばかりなんです。元々は、ふるさと納税や関係人口を増やすための取り組みをしている『ふるさと納税推進室』と、市街地の活性化や移住などの課題解決プロジェクトを行う『企画部 地域振興・移住定住課』がありました。このふたつの課は、ふるさと納税によって得られた寄附金を課題解決プロジェクトに活用するなど、連携していた部分が多々あったんです。そんなこともあり、それぞれ『ふるさと寄附推進課』と『ふるさと魅力推進課』と改め、2課で『ふるさと創生室』がスタートしました。それまで私はふるさと納税推進室にいたため、新たに地域の魅力の創出やプロモーション的な仕事が加わったような感覚です。

 

管理職になって市民と接する機会は減りましたか?

実はそんなこともなくて。いつまでもプレーヤーの気分で相変わらず外に飛び出してしまっているんです。座っているよう周りから言われるので少し控えてはいるのですが(笑)管理職って色々な決定権を持たせていただいていますけど、現場を見ないことには決定できないというか。人から聞いただけで判断するのが怖いので、できる限り直接話したいって思っています。そんな感じなので一日24時間では足りない。それでも、管理職になって自分で施策を考えて取り組めることも増え、“市民の笑顔のために”という想いがますます強くなりましたね。

ふるさと創生室の一角には地域で活躍する方々の写真が飾られている

 

組織改正で誕生した『ふるさと創生室』とは

 

ふるさと創生室の役割を詳しく教えてください

多岐に渡りますが、ひとつはふるさと納税に関する業務です。ふるさと納税というと地場産の返礼品が表に出ていますが、そもそもは15年前に“移住” をゴールに国が作った制度なんですよね。育ててもらった地元に感謝をするために寄附をして、そのお礼として返礼品があった。返礼品には“地方から都心に出て行った人たちが戻ってきてくれるように”と、ふるさとを思い出してもらう意味合いもありました。税金を首都圏に払うだけでなく、地元や縁のある地域に寄附することは、その町の活性化に繋がります。そして活性化したその町に移住してもらうというのが目的でした。それが、昨今では“地場産品の支援”のように形が変わってきてしまいましたよね。富士吉田市はこれまでもこれからも、返礼品をただ送るだけではなく地域を知ってもらってファンになってもらい、ここに遊びにきてもらったり、移住を考えてもらえるような取り組みを継続しています。市の“関係人口”をどれだけつくれるかというところに重点を置いています。

 

ファンづくりのためにどんな取り組みをされているのでしょうか?

今まで行政としてなかなかできなかった“デザイン”に力を注いでいます。例えば寄付金受領証明書を送る際に使う封筒とか、返礼品を送る段ボールもすべてデザインされていて、“行政から届くものには見えないよね”ってよく言われます。このデザインの分野で力を貸してくれているのも移住者なんですよ。富士吉田は多種多様なクリエイターが集まる町になりつつあって、その方達によってこの町の活性化が図られている部分は多々あります。元々定住されている方ももちろんですが、ここは移住者の皆さんが活躍できる町ですね。

返礼品を送る段ボールにもひと工夫

 

『ふじよしだ定住促進センター(市が業務委託をしている事業所)』が月に一度行っている“移住者が集うごはん会”というものがあるのですが、先日私も参加してきました。15人前後の移住者が集まって、近況報告したり情報共有の場になっています。「この町の人は外から来た人を受け入れてくれる」と皆さん口を揃えて言っていたし「温かい人が多い」とも。移住をしても地域に馴染むことができず、結局定住には至らないこともよくありますが、富士吉田はそのまま定住される方が多いです。この日は移住をしようか迷っている20代の女性が来ていたのですが、先輩移住者の方々から「住むならあの辺りが良いよ」などアドバイスをもらったり、最後には連絡先を交換している姿を見て、なんかいいなって。移住前も後も、そういうコミュニティがあるのは大きいと思います。

そういった個人の受け入れをする『ふじよしだ定住促進センター』と、主に企業を繋ぐキャップクラウドさんの『ドットワークPlus』。富士吉田にはこのしっかりとした二本柱があり、地域創生の面で大事な場所になっています。

 

ふるさと納税以外にはどんなことをされていますか?

ふるさと納税で集まったお金をどのように活用していくか、この町をどのように活性化させていくかなど、それぞれの担当課と一緒に施策を考え、財源的な厳しさがある中でもプロジェクト化してきちんと示すことを大事にしています。その上で賛同いただいた方々が寄附してくださっていますね。例えば、キャップクラウドさんと一緒に取り組んできた『まるサテ』のワーケーション事業も2億を超える寄附が集まって形になりました。市の一般財源を使わずに、そういった寄附金で市の課題解決を進めています。

また、現在『ジビエ加工センター』を建設中です。関東一の集客数を誇る『道の駅 富士吉田』に隣接することで“人流をつくる”。それと同時に “富士山の保全”という目的があります。富士山周辺に多く生息するニホンジカですが、気候変動の影響で年々増え続けています。そのニホンジカに新芽を食べられることで樹木や自生の固有植物が減っていることが問題になっています。対策として計画捕獲を行っているのですが、捕獲後はほとんどが山奥に埋められてしまっているんです。それを敢えて観光施設として市街地に建てることで、多くの人が命について考える機会になりますし、実際にソーセージやハムに加工し販売もします。最後まで命を無駄にしないことを学ぶ教育の場にもなります。このプロジェクトはクラウドファンディングで集まった寄附金で実現しました。マイナスだった事柄をプラスに変える取り組みに賛同してくださった方々のおかげです。この地だからこそできるチャレンジをこれからもしていきたいですね。このように、ふるさと納税の寄附金により、関係人口を増やすことができたり、子どもたちの給食や医療費の無償化など、市民の満足度をあげることにも繋がっています。

 

萩原さんが考える富士吉田の魅力と今後の課題

 

移住先として人気の富士吉田ですが、どんなところが魅力だと感じますか?

私は生まれも育ちも富士吉田ですが、昔は観光地として人気の山中湖と河口湖の間に挟まれて、“通り道”というイメージが強かったんです。商業の面では充実していたので買い物目的で集まる人は多かったと思いますが。それが、どこの地方都市も言えることですが、平成2年頃から徐々に人口が減り始めたんですね。それでもなんとかして街を活性化させようと、いろんなことにチャレンジし続けてきた町なんです。郷土愛の強い住民の方々の力で、少しずつ成果が見えてきたのがここ数年です。そんな“チャレンジをやめない”ところがこの町の魅力だと思っています。

地域発の商品について一つひとつ背景を教えてくださった萩原さん

 

今まさにチャレンジ中なのが、“稼げる町”を創ること。今年、市長が取締役社長となり『(株)ふじよしだまちづくり公社』という会社を設立しました。これからますます人口が減っていく中で財源も厳しくなっていきます。そうなると何も新しいことに挑戦できなくなって、国からもらう交付金でなんとか維持することになってしまいます。きちんと自立した町を創るために“自分たちで稼げるものを見つけていこう”と、株式会社として立ち上げました。

 

今後の課題はありますか?

課題としては、空き家がたくさんあるにも関わらず、“空き家バンク”に登録される家がとても少ないことですね。家族が亡くなったあとも、家を人に貸したり売ったりとまでいかない方が多いんです。もっと解放できる空き家が増えると良いのですが、皆さん愛着があったりもしますよね。今は不動産業者と連携しているので、少しずつ改善の方向にいくと思います。それから、市外や県外に住む空き家をお持ちの方には課税通知書を送る際に“空き家バンクに登録しませんか”とお知らせを入れています。そうするとお問い合わせが増えます。相談先がわからないという人も多いので、もっと情報発信に力を入れていきたいです。

受取り手の気持ちに寄り添うデザイン性のある封筒

 

ドットワークプロジェクトに期待すること

まるサテのこれからに期待されることがあれば教えてください

キャップクラウドさんがいち早くリモートワークやワーケーションができる場を作ってくださっていたおかげで、コロナ禍による変化にも一緒に対応していくことができました。リモートワークをされる方にとって、ますます身近な町になっていくと思いますし、日々訪れたいと思える場所になればいいです。

それから、富士吉田に住む子どもたちには自分の町をもっと好きになってほしいです。まるサテプロジェクトを通して、“地元でこんな働き方ができる”ということを知れる機会が増えているし、それを定住にも繋げていけたら。この夏に新設された『ドットワークPlus Lab』を交流の場として、若い方々にいろんな働き方があることを示していけたら良いですね。

Labは市の職員も活用させていただく予定で、今まさにIT技術を高めるためのカリキュラムを制作してもらっています。市役所内にITに強い人材が増えれば仕事の効率も上がりますし、それを発信することでLabが他の企業や自治体の研修の場になっていくかもしれません。ITを軸に色々な人が集まる場になっていくと思うので、まずは自治体職員から始めようとしています。

 

萩原美奈枝さんからのメッセージ

富士吉田は実際に来てみなければわからない魅力がたくさんあるので、ぜひ一度訪れていただきたいです。その際にドットワークPlusで仕事をしてみるのも良いですね。市内を見て周ってご自身の目で確かめて、それでこの町の良さを知っていただけたら、きっと住みたくなると思います。

 

富士吉田市役所
https://www.city.fujiyoshida.yamanashi.jp

 

 

「富士吉田市まるごとサテライトオフィス」とは

「富士吉田市まるごとサテライトオフィス(略:まるサテ)」は山梨県富士吉田市全体を使って、様々な事業者が富士吉田市内に自分のサテライトオフィス(企業または団体の本拠地点から離れた場所に設置されたオフィス)を手軽に持つことができる取り組みです。

(詳細:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000093585.html

 

富士吉田市まるごとサテライトオフィスでは取材に応じてくださる方を募集しております。

 

「地域活性や街づくりに興味がある!」
「今こんな活動をして街を盛り上げている」
「頑張っている人がいるので記事で紹介してほしい」
「面白い構想があるのでこんな方と繋がりたい」などなど。

ひとつでも当てはまったら是非ドットワークPlusにいらしてください!

写真・記事執筆/高井まつり(KINONE)