半世紀超えの再開!吉田口登山道に復活した“馬返し”の「大文司屋」

今回のインタビューに答えてくださった「大文司屋」の羽田徳永さん

世界遺産富士山の構成資産「吉田口登山道」の拠点として、多くの登山者に親しまれている「馬返し」。大正時代には富士山禊所が置かれ、身を清めて登拝の道へ入る神聖な場所でした。しかし、昭和39年に富士スバルラインが開通して富士登山のスタイルが麓から登る登山から5合目からの登山へと変わると、5合目下で営まれていた多くのお茶処も暖簾を下ろしました。今回、そのお茶処のひとつで、半世紀以上の時を経て復活した「大文司屋」のオーナーである羽田徳永さんに、富士吉田のまちづくりやその可能性について聞きました。

▼馬返「大文司屋」と富士吉田の関係性

錦繍の馬返し「大文司屋」
本日はよろしくお願いします!

こちらこそよろしくおねがいします

羽田さんのご出身はどちらなんですか?

わたしは富士吉田市の出身だけど、大学卒業後私立大学に就職して33年間勤めて、55歳のときの早期退職。そこから1年くらい間を空けて、この大文司屋を再開させました。父から聞いている話だと江戸末期から昭和39年のスバルライン開通による店閉まいまで、5代に渡って大文司屋は運営されてみたい。わたしの父が5代目なので、わたしで6代目ですね。

昭和39年からだと半世紀以上ですか?

もともと馬返しのお茶屋さんは4軒くらいあったらしいんだけど、富士講や富士登山と共生していたこともあって、昭和39年のスバルライン開通で、その文化とともに衰退しちゃった。その時に一度は閉めた大文司屋なんだけど、明治大学の山岳部のOBの方とご縁があって、山岳部の富士山の拠点として使ってもらうことになりました。そのおかげで他の小屋が朽ちていくなか、この大文司屋の建物だけがかろうじて維持できてたんだよ。だから世界遺産に登録されてから新しい建物は建てられないルールの中でも、幸運にもここには営業を再開できる素地が残っていました。

大文司屋についてお話してくださる羽田さん

わたしはずっと大学の事務職として務めていたんだけど、父が早世したのもあって、55歳で退職しようと決めてました。そして55歳が近づくにつれ何か面白いことがやりたいと思っていたところに「大文司屋」があるな、と思って。大文司屋を閉めた昭和39年は、前回の東京オリンピックの年。ちょうど何かやりたいと思っていた時にTOKYO2020の誘致が決定したので、それじゃあ、この節目に復活したら面白いかもと思ったのが、大文司屋を再開した理由です。

1年で準備から開業までを実現させたんですか?

単純に古くなったから建て直そうということができないエリアなので色々と大変でした。それでいて飲食業をやるための保健所の許可申請をどうしようとか、長く地元を離れていたので、困ったことを誰に頼めるのかもわからないところから始まりました。それでも最低限の素地が残されていたから開業までこぎつけられたね。同じくお茶屋さんをやりたいって人もいるかもしれないけど、色々規制があるから…建物がないとどうにもならないからね。

登拝の道へ入る石の鳥居

閉業している間も、大文司屋と富士吉田市の関係は続いていて。というのも、平成13年から、茶屋を登山者の無料休憩所として使わせてもらえませんかという打診がありました。なので細々ではあるけど、行政とのご縁はつながっていた感じです。

富士吉田という街について

大文司屋の店内、かつては明治大学の山小屋としても機能していた
富士吉田はどんな街ですか?

アクセスの良さは魅力だよね。わたしは中央林間と富士吉田の2拠点生活をしてるけど、それができるのは距離が近いというのは大きいですよ。それにやっぱり富士山の景色は最高だから、都心や県外からのお客さんにはとてもいい場所だと思います。田舎ではないけど都会でもない、そこそこ観光もできて余暇を過ごせる、精神衛生上はめちゃくちゃ良い。ただ冬はすごく寒いから、それにマッチした仕組みがないと、通年でお客さんを呼び込むことはできない。

地元の人と話をすると、河口湖や山中湖にばかりお客さんが流れていって、富士吉田は素通りされちゃうみたいなことを聞きます。けど、富士山っていうランドマークがあるだけですごいんだよってことが、やっぱり地元に住んでいるとわからないように感じます。僕も生まれ育ったのが富士吉田だから、特別に富士山を意識するってことは、ほぼほぼありませんでした。でも、少し離れてその凄さを思い知る。山のランドマーク特有のことかもしれないけど「その場所を目指したくなる」という強い魅力を富士山は持っていると思います。

離れてみることで慣れを解除するというか、再認識できるようになりますよね

「大文司屋」として一番最初メディアに取り上げてもらったのが、FM東京の「デュアルでルルル」っていう山梨県の広報番組で山梨県に2拠点生活や移住を考えている人に対する情報提供番組だったんです。その時にもお話させてもらったんですが、2拠点生活の一番の良さは“暮らしの良いとこどり”ができることなんですよ。例えば、わたしの場合は寒いのが苦手だから、冬の間だけは神奈川県に帰る。大学時代や前職からの友人に会いたいと思ったら神奈川で時間を気にせず会える、2拠点生活を考えている人の多くは、どこかにすでに根をおろしていて、もう1箇所いいところないかな、と探してる人だと思います。そういう人は、根を下ろしてるところにすでに友達もいたりするから。だから新しい場所の生活にトライしやすい。良い意味で逃げ道を用意するって言い方ができるかもしれないけど、移住と2拠点の大きな違いはそこだと思いますね。

▼富士吉田がもし、まるごとサテライトオフィスになったら…こんなことが起こる!と期待していること

暖かな焚き火が来訪者を迎えてくれる
もし富士吉田がまるごとサテライトオフィスになったら、何が起こると思いますか?

実はその予兆は感じていて。この大文司屋をはじめてから本当に色々な出会いがあったけど、中には驚くような経歴の人や面白い人も来てくれるんだよね。その人達は余暇にこっちの別荘に遊びに来てて、ゆっくり過ごせるような場所を探しているって感じなんだけど。そういう人たちって東京はじめ大都会じゃまず出会えない。都会だと必死にアンテナ張って、そういう人たちのデジタルな発言をフォローしてってやらざるをえないけど、この地域にはその発信者みたいな人たちと、フラッと町中ですれ違ったり、喫茶店で隣に座っているかもしれない。コロナ禍の今でもそうなんだから、外から人がもっと来るようになれば、より多くの出会いが生まれると思いますね。

そして仕事のシーンでない出会いから、仕事につながっていくみたいなことも起きやすくなると思います。ドットワークBARもそうだけど、そういうモチベーションの人がいて、そこにつながるための熱量は必要があるんだと思います。逆にその熱量がないと、ワーケーションや移住する人にとっての富士吉田の魅力は半減するんじゃないかな。そういう意味で予想だにしない出会いや面白いことが起きやすくなっていくんだと思います。

自身の故郷であり30年越しに帰郷した富士吉田を語る羽田さん
羽田さん自身にもそんな出会がありましたか?

このお店で出会ったわけでじゃないですが、わたしは山梨県を拠点に活動するヴァンフォーレ甲府の大ファンで、しょっちゅう試合の応援にも行きます。そのサポーター仲間で某銀行に勤めていた人に大文司屋の復活プロジェクトの話をしたら、使いやすい助成金を教えてくれたね。おかげさまで施設の修繕費や運営に必要な備品を買い揃えることができました。

さきほどお話した飲食業に関する許可申請なんかでも、やっぱり店舗として水や電源の確保、キッチンの準備は絶対必要で。もちろん退職前に貯めていたお金から、たとえ利益が大きく上がらなくても運営していけるだけの準備はしいたつもりだけど、助成金みたいなもので賄えるならすごくありがたいし、そこで浮いたお金でもっとお客さんのためになるようなものを揃えるということができますよね。夏の忙しいシーズンは難しいけど、春や秋といったシーズンには、じっくりとお客さんと話せる時間があるので、そこでまたいい出会いやアイディアが生まれると期待しています。

羽田徳永さんからのメッセージ

仕事につながる出会いを期待すると何となくガツガツしちゃうようで嫌なんだけど、仕事ではないところで出会った人と色々話しているうちにその方の人となりに魅力を感じ、お互いが様々なアイディアを出し合って、そこから考えてもいなかった面白いことや仕事につながっていく。富士吉田はそんな場所がたくさんあるし、色んな人に使ってもらうことで、これからも増えていくと思います。大文司屋にもそんな人との出会がたくさんあるので、来年の春になったら是非遊びに来て欲しいですね。

馬返「大文司屋」

https://daimonziya.com/


◯「富士吉田まるごとサテライトオフィス」構想とは

「富士吉田市内をまるごと使ってテレワークできる環境を整えよう」という構想です。

日本は新型コロナウイルス感染拡大の影響で多くの企業やオフィスワーカーに「在宅勤務」が推奨されて来ました。しかし、自宅で働くことに息苦しさ・やりづらさを抱えている人たちの存在は今や社会的な問題です。

そこで当社は山梨県の富士吉田をモデルタウンに「日常型ワーケーション」を提案しています。日常型ワーケーションとは、日中は通常勤務のようにしっかり仕事をして、仕事の前後の時間(朝・夕方?夜)に地域の魅力に触れられるスタイルです。

このスタイルは、作業環境の変化による生産性の向上のほか、地域の魅力に触れる機会の創出や、常に変化を感じる生活のなかで発想力・企画力などのクリエイティビティが培われるというメリットがあります。

富士吉田は新宿から1時間強と好立地ながら、富士山が目の前に広がる絶景地。当社は富士吉田でワーケーションができる仕組みづくりに取り組んでいます。まるごとサテライトオフィスの富士吉田をぜひ体験してください!

◯富士吉田まるごとサテライトオフィスで取材に応じてくださる方を集しております。

「地域活性や街づくりに興味がある!」

「今こんな活動をして街を盛り上げている」

「頑張っている人がいるので記事で紹介してほしい」

「面白い構想があるのでこんな方と繋がりたい」などなど。

ひとつでも当てはまったら是非ドットワークBARにいらしてください!


記事執筆/宮下 高明