種選びからこだわったオーガニックコットンで
100年の歴史を繋ぐ『前田源商店』前田晋作さん

先染織物の産地として注目される富士吉田の織物産業。今回は、織物の歴史とともに100年以上の歳月を歩んできたファクトリーブランド『前田源商店』の四代目にあたる前田晋作さんにお話を伺いました。特に、オーガニックコットンの生地や商品をメインに開発・販売されるようになった背景や、多くの人に認知されるまでの活動にスポットを当ててインタビュー。また、個人でITの仕事を請け負う前田さんに、仕事をひとつに絞らない真意についてもお話しいただきました。

大正時代に創業された前田源商店とは

インタビューに応じてくださった前田源商店・前田晋作さん

本日はよろしくお願いします!

こちらこそよろしくお願いします。

『前田源商店』について伺ってもよろしいでしょうか?

前田源商店は1921 年に私の曽祖父が創業した織物の会社です。創業当時は傘の買付問屋でした。壁紙やカーテンなどのインテリア製品から、服地やハンカチまで、時代に合わせながらメインとなる商品を少しずつ変化させてきました。そんな時代を経て、現在はオーガニックコットンの生地・製品を軸に織物製品を作り続けています。

前田さんはいつ頃から後を継ごうと思われたのですか?

富⼠吉⽥は織物の町として栄えていましたが、私が⽣まれた頃にはすでに織物業の勢いのある時代は通り越してしまっていました。会社も不安定な状態が続いていたので、親から「後を継いでほしい」と⾔われたことは⼀度もありませんでした。⼦どもの頃から仕事の様⼦を⾒てきました し、実際に⼿伝いをすることもあり、織物⾃体はすごく⾝近に感じていましたが、⾼校卒業後は興味を持ったIT分野を学ぶために東京に進学し、そのままIT企業に就職しました。

後を継ぐと決めて戻ってきたのは2018年です。⾃分が⽣まれ育った場所である会社の状態がずっと気になっていたこと、また、私⾃⾝も肌が弱くてオーガニックコットンの魅⼒を実感していましたので、さらに多くの⼈にオーガニックコットンの良さを広めていきたいと思ったこと、そして、前⽥源商店という企業が時代の移り変わりに合わせて100年以上続いてきた会社なので、できる限りこのまま会社を存続させていきたいという気持ちがあり、東京から富⼠吉⽥に戻ってくることを決めました。

とはいえ、織物業は不安定な状態が続いています。この地域の織物業の特⾊として、⼯程ごとに会社が分かれていますが、弊社はその中の企画設計、販売を担っています。分業体制なので、⼯場がひとつでも減ってしまうと弊社も続けることが難しくなります。職⼈さんたちもご⾼齢の⽅が多いですし、⼯場が徐々に減っているような状況であることには変わりないです。そんなこともあり、もうひとつの柱としてITの仕事も再開することにしました。

地域の職人さんによって守り継がれてきたジャガード織機


100%オーガニックコットンに賭ける想い

オーガニックコットンとの出会いを教えてください

オーガニックコットンとは、⾃社のオリジナル製品を模索している時に草⽊染をきっかけに出会うことができました。オリジナル製品を作る前は、得意先から注⽂を受けた⽣地の⽣産(OEM)が中⼼でしたが、その状態に⾏き詰まりを感じた今の社⻑と専務が「オリジナルなもの作り」へシフトしていかなければならないと考え、草⽊染のアイテムを作成し展⽰会へ出店するようになり、30年ほど前に出展した展⽰会でオーガニックコットンと出会いました。

アメリカから輸⼊されていたオーガニックコットンを⾃社でオリジナルの⽣地作りの原料として⼊⼿するため貿易会社と取り組みを開始して、⽇本国内でオーガニックコットンの普及活動の団体『NPO法⼈:⽇本オーガニックコットン流通機構(NOC』の⽴ち上げに加わるとともに、安定的にオーガニックコットンを⼊⼿するためのプロジェクト(bioReプロジェクト:インド、タンザニアでの農業⽀援)にも協⼒をしています。

最初はオーガニックコットンで織物⽣地を製作して販売していましたが、そもそも90年代当時はオーガニックというもの⾃体がまったく認知されておらず「同じ綿なのにどうしてこんなに⾼いの?」と値段の⽐較をされ、本来の魅⼒がなかなか伝わりませんでした。そこで、まずは県内の⼈にオーガニックコットンの良さを知ってほしいと考え、県内のスーパーの社⻑に直談判して商品を置いてもらったり、毎⽉開催される朝市に出展して実際にオーガニックコットンに触れてもらえる機会を増やしたりなど、本当に地道な活動に取り組むうちに、だんだんとオーガニックコットンというものが浸透してきたなと感じることが多くなってきました。今ではその甲斐あってか「オーガニックコットンといえば前⽥源さんだね」と認知してもらえることが増えてきました。

大地や生産者の健康も守るオーガニックコットン

お客さまと接する中で感じることはありますか?

オーガニックコットンの温かさや品質の良さが広まってきたことに加えて、時代と共にお客さまの価値観にも変化を感じるようになりました。値段だけに捉われず、物の良さに⽬を向けてもらえることが増えてきたように思います。また、化学物質過敏症で悩まれている⽅の中には、弊社の商品でないと安⼼して⾝に着けることができないという⽅もいらっしゃいます。

ある時、滋賀から旅⾏に来たというお客さんが弊社に⽴ち寄ってくださったことがありました。その⽅は、化学物質過敏症で、前々からうちの商品を愛⽤してくださっていたそうです。旅⾏中、たまたま宿泊していたホテルで弊社の商品を⾒かけて、今まで使っていたものが私たちの製品と知って、わざわざ会社まで会いに来てくださいました。「前⽥さんの製品のおかげで旅⾏ができるまでに回復しました」と聞いたときは、ものすごく嬉しかったです。

ホテルにも卸されているんですね

河⼝湖や⼭中湖のホテルで弊社の商品を扱っていただいています。県内ではほかにもスーパーや⼩売店などで販売しています。東京や地⽅のスーパーにも扱っていただいているところがあります。イベントなどに出展したことをきっかけに話がつながって、新たに取引先が増えることも多いです。海外だと、イタリアで開催される「ミラノウニカ」という⽣地の⾒本市に⾏ったときは、海外のメゾンから好評を得て、実際に⽣地を使っていただいたこともあります。

*メゾンとは、ファッション業界で「ブランド」「会社」「店」を指す

生地の種類は1000種類以上で10メートルから購入可

地場産業に携わっているので、地元の機織り関連イベントにも積極的に参加するようにしています。例年秋に⾏われるハタオリマチフェスティバルや、FUJI  TEXTILE  WEEKというアートと織物が融合した芸術祭にも出ています。あとは、BTAN  MARKETといって、製造過程でどうしても出てしまうB級品(B反)などを集めて売るイベントにも参加しています。出店を続けるうちにお客さんに覚えてもらえるようになり「オーガニックコットンと⾔えばここだよね」と⾔ってもらえるのは嬉しいです。

離れたからこそわかった富士吉田の魅力

富士吉田のアピールポイントを教えてください

たくさんあって迷うのですが、中でも⾃然がとても⾝近にあるということが⼀番の魅⼒です。東京で14年間暮らしていて、戻ってきた時に⼀番強く思ったのが、四季をちゃんと感じられるということ。毎⽇景⾊が違うから飽きないですし、空気も綺麗です。東京にすぐに⾏ける距離感もすごくいいところです。カルチャー的なものに触れたいときや⽤事がある時にパッと⾏ってその⽇に帰って来られる。⾃然と都⼼、⾏ったり来たりしやすいことも⼤きな魅⼒だと思っています。

の息⼦がいるのですが、⼦育てもしやすい町だと思います。⼩さい⼦どもが遊べる施設がたくさんあり、パインズパークという芝⽣が広がる公園や、キポキポという公園と⼀体になった施設も設備が充実していて安⼼して遊ばせられるので、よく利⽤します。⾃然が好きなので、富⼠五湖に⾏くこともあります。

昔と今で変わったと思うところはありますか?

ここ数年ですごく変化を感じています。15年ほど前でしょうか、新倉⼭浅間公園忠霊塔で撮影された五重塔・桜・富⼠⼭といった⽇本のシンボルが、⼀枚に収まった写真が海外で話題になったそうです。あの写真をきっかけに国内外から⼤勢の観光客が訪れるようになり、特に桜の季節にはすごい賑わいを⾒せています。学⽣の頃、あそこで⻤ごっこをしていたのが嘘のようで「たった⼀枚の写真でこんなにも状況が変わるんだ」と⼤きな衝撃を受けました。観光客が増加したことで、少しずつ商店街のシャッターも開き始めています。まだまだ変化がありそうで楽しみで

新倉山浅間公園忠霊塔の展望デッキから望む景色

ドットワークプロジェクトに期待されることがあれば教えてください

地元にドットワークPlus・ドットワークPlus Labのような場があるというのはすごくありがたいなと思います。会社員だと、どうしても社内の人や業務関係の人とのコミュニケーションが中心になってしまいます。ドットワークPlus・ドットワークPlus Labに行けば、異業種の方と交流できるので、そこで刺激をもらったり、視野を広げる良い機会になっています。これからも、ふらっと立ち寄った時に仕事の枠を超えた交流ができる場であってほしいです。

また、私はドットワークPlus・ドットワークPlus Labで開かれるIT関係のイベントに参加することがあります。ITといってもいろいろな分野があるので、知らない分野に飛び込む第一歩の場になりますし、分野ごとの考え方に触れることで、また新しいものさしができて、とても勉強になっています。集まる皆さんは、多種多様な活動をされているので、それを見聞きすることでこれまでの固定観念が外れることも多いです。

前田晋作さんからのメッセージ

富⼠吉⽥は、⾃然を⾝近に感じることができて、ある程度⽣活に必要なものは揃っている、⾃然と都市のバランスがちょうど良いとても暮らしやすい町です。実際に滞在して、この地域特有の気候や⽂化を感じ取っていただけたら嬉しいです。また、オーガニックコットンにご興味を持っていただけましたら、ぜひとも前⽥源商店にもお⽴ち寄りください。外観は事務所に⾒えてちょっと⼊りづらいですが、オーガニックコットンの織物⽣地や商品も直接購⼊していただけます。ぜひ、富⼠吉⽥に遊びにきてください。

前田源商店
https://www.maedagen.co.jp

 

「富士吉田市まるごとサテライトオフィス」とは

「富士吉田市まるごとサテライトオフィス(略:まるサテ)」は山梨県富士吉田市全体を使って、様々な事業者が富士吉田市内に自分のサテライトオフィス(企業または団体の本拠地点から離れた場所に設置されたオフィス)を手軽に持つことができる取り組みです。
(詳細:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000093585.html

 

富士吉田市まるごとサテライトオフィスでは取材に応じてくださる方を募集しております。

「地域活性や街づくりに興味がある!」
「今こんな活動をして街を盛り上げている」
「頑張っている人がいるので記事で紹介してほしい」
「面白い構想があるのでこんな方と繋がりたい」などなど。

ひとつでも当てはまったら是非ドットワークPlusにいらしてください!

写真・記事執筆/高井まつり(KINONE)